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母と息子

先日、渋谷区にある「山種美術館」にて開催されている「上村松園・松篁 美人画と花鳥画の世界」を鑑賞。つまりは日本画家の上村松園さん(女性)の描いた美人画と、その御子息で同じく日本画家の上村松篁氏による花鳥画の展覧会という事だ。母と息子が同じ日本画家という例は、自分はこの度初めて知った。

例えば音楽の世界では、親が子供に手ほどきし、そのうち上手くなって親と同じプロの道に進む、なんて話はよく聞く。まあ他分野の芸術の世界でもあるとは思うが、少なくともこの母子の場合は母が敢えて絵を教えていた訳ではないようだ。それなのに母親と同じような大家となった。松篁氏のご子息もまた日本画家となられたので、全く以てこれは偏に“血”であろう。

それにしても松園の美人画は美しかった。会場には他の作者による美人画も展示されていたが、失礼ながら段違いの美人であった。勿論自分は絵に関してはド素人なので詳細は解らないが、とにかく彩色が素晴らしい。特に着物の色が全く陰影を付けないベタ塗りで、まるでコンピューターで描いたようにムラがない。この陰影を敢えて付けない彩色法に、作者のこだわりみたいなものを感じたが、それでいてグラデーションのある着物柄は、そのぼかし方が実に自然で、これを筆でやってのけるとはまさに神業だと思った。一体細部はどうなっているのかと、思わず顔を近づけてまじまじと見つめてしまった次第である。

「娘」(昭和17年)これは撮影可。しかもSNSにアップOK!

展示画の横には、時折作者自身の語録が添えられているが、その中に「一番むずかしいのは眉である」という一文があった。「描き方次第ではだらしない人にもサムライのようにもなってしまう。細すぎても、毛虫のように太すぎてもならず…」面白かったのは、この語録の近くにその言葉通り毛虫のような眉毛の女性が描かれていた事。違う作者だが、思わず「なる程!」と笑ってしまった。

それからは各絵画ごとにしげしげと眉をチェックするようになったが、そういえばあの雛人形を作る人形師さんも同じように「眉が決め手」とTVで言っていたのを思い出した。

一方、松篁は花鳥画がメイン、というよりは今回はほぼ「鳥」のみだったが、こちらもまた実に鳥たちが“美しく”描かれていた。その対象についてはかなり研究し尽くしたらしく、海外に観察にも出向いたらしい。人物画については興味がなかったか、それとも既にその道の大家であった母を意識していたのか、それは判らないが、もし人物を描いていたらやはりとても美しく描かれているだろうと想像する。

この日の展覧会で圧巻だったのは「白孔雀」、小さめの展示室に入ると正面にドーンと備わっている。羽は閉じているが、観る者にその広げた姿を敢えて想像させる。なまじ広げている状態よりもその美しさと威厳を感じる作品であった。

母と息子か…自分の母の境遇は音楽とは無関係だったので、このように同じ芸術分野で活躍する肉親を持つ気持ちというのが自分にはよく解らない。よく解らないが、ただいきなり「音楽の道を進みたい」と言い出した自分を全力で応援してくれたことだけは確かだ。その点では、直接息子に教えることはなかった上村松園さんも同じ心持ちだったのではと思うのである。

 

…あれから丁度25年。今でも心から感謝している。

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