藝大フィルとの35年(その8)シフト係
退職するまでこれをずっと自分がやってきた訳だが、最初はいつ頃からだったのか…それは覚えていない。「シフト係」とはつまり、誰がどの曲でどのパートを吹くかを管理する役なのだが、自分がオケに入りたてのバリバリの新人時代は一体どのようにして決めていたのか…?まさか2人の先輩方に対して「貴方はこれを吹いて下さい、貴方はここは降りて下さい」なんて事はやっていなかった筈だが。
ただ、Oさんとの2人体制になってからは、もうOさんは首席で1番のみ演奏、自分は必ずピッコロを担当するから2番か3番という役割分担は決まっていたので、シフトを決めるのは楽だった。
で、足りないパートに大学院生を乗せる。院生の中からインスペクターを出してもらい、自分は専らその人に乗り番の詳細を連絡する。例えばこんな内容である。
【4】モーニングコンサート…1名
♪ウェーバー:ファゴット協奏曲…2nd
♪ショパン:ピアノ協奏曲第1番…2nd
リハ
♪向井航:新曲…2nd
リハ
リハ
そうすると間も無くこんな返事が返って来る。
おはようございます。
お待たせしました。
5、6月の乗り番が決まりました。
【4】モーニングコンサート… 院一年 ◯◯ ◯
【5】モーニングコンサート…院一年 □□ □□
【6】前期定期演奏会…院二年 △△ △△
【7】モーニングコンサート …院一年 ◎◎ ◎◎
です。よろしくお願い致します。
信頼できるインペクの人たち
このようなやり取りを30年程続けてきた。シフト係は絶対に空席が生じてはならないという、仄かなプレッシャーがかかっているが、彼等彼女等のお蔭で確実にシーティングをこなす事ができた。1つの空席も出さずに…と言いたいところだが、長い年月の中では残念ながらそういう訳にもいかなかったのは、別記事「不名誉な記録」に記載の通りである。
その30年位前というのは未だ電子メールなど無かった時代である。電話やファックスでのやり取りだったし、時には手紙だった事もある。現N響の首席奏者であるK氏も嘗てはこのインペクを務めてくれたが、彼は学生時代「藝大寮」に住んでいたので、寮宛にこういった封書を投函した事もあった。果たしてちゃんと届くのかな〜と心配したものである。
それがメールになってからは、双方にとって劇的に楽になった訳だが、だからといってこちらからの連絡が確実に届いているかどうかは未だ判らない。例えば現シティフィルのTさんの時は何かの通信トラブルか、全然返信が来なくて何度も何度も送り直した事もある。なのでその次世代からは、必ず「受信&確認」メールを返してくれるようにした。
そして昨年度、漸くというべきか、遂にやり取りをLINEでするようになった。実はこれには多少抵抗があったのだが、もうこれで最後だからいいかなと、この自動的に「既読」が付くシステムに替えた次第である。
因みにこれはエキストラで乗る大学院生にとっては「管弦楽実習」という授業を受けている事になるので、出演料は一切出ない。それでもインペクの人達は総合的には大変な努力をして、確実にエキストラを調達してくれたと思う。それでも都合等により乗れる人がいない場合は、どうしましょうかと相談に来て、その都度対処していた。ただここ最近は、平気で「該当者なし」とだけ返して来るので思わずムッとしたが、これも時代の流れなのかなとも思う。
ではそんな時どうするか?
エキストラの外注
大学院生が“捕まらない”場合は、その下の学部生まで声をかける時もある。ただ学部生ともなると、普段の授業やレッスンにスケジュールが抵触する事もあり、何よりまだ技術的に心配な面もある。なので、ここ数年は外部からエキストラを招んでいる。出演料は大学から出してもらい、その予算はある程度の額が組み込まれているそうである。金額は不明だが、他のプロオケよりも比較的割高だそうである。
学部生の調達はインペクにお願いしていたが、外部奏者は自分が直接探した。その際は嘗ての大学院OBOGに率先して声をかけて乗ってもらった。これまでノーギャラで頑張ってくれたお礼の意味も込めて。そして流石は「管弦楽実習」の履修生、皆実に素晴らしい仕事をしてくれたと思う。
またまた面倒臭い人達
ところが割と最近の話だが、院生も外部エキストラも(フルート奏者はあんなに居るのに)なかなか捕まえられない事があった。昨年春の「新卒業生紹介演奏会」だが、同じ日に近所でTMSOオケの入団オーディションが重なっていて、どうやら皆受験するらしい。新パートナーのA.Yですら降りたいというので、よりによって2人補充しなければならず、血眼になって探した結果、何とかG大のOG2人をゲットできた。
そのうち1人は実は関西の実家にもう住居を戻していたので、このシリーズの期間中はまた東京に滞在する事になる。その為の費用は藝大が出してくれて、勿論基本の出演料も支払われたのだが、これが後に運営委員会で大問題になったそうだ。理由は言わずと知れた「エキストラへのカネのかかり過ぎ」である。
冗談じゃない!交通費宿泊費は必要経費として当然のことだが、例えば「首都圏から◯km以内」みたいな規定がある訳でもなく、仮にあったとしたらシフト係にそれは前もって知らせるべきであろう。増してや今回のこの逼迫した状況も知らず、勝手なものである。奴等は大方外国人指揮者が来る際の必要経費は出し惜しみせず、ヴァイオリンの後方に座るエキストラには出し惜しみをするのであろう。同じ空間に居て同じ音楽を奏でるのに…。嘆かわしいことこの上ない。
この事実を知った瞬間、Gフィルが今の状態で存続されるのはかなり難しいなと感じた次第である。自分としてはGフィルではなくて、運営委員会の方を解体してほしいのだが…でももうどうでも良い。