藝大フィルとの35年(その1)アットホームな職場です
サークルではない
やっと、ようやく、ついに…定年を迎えた。
「藝大フィルハーモニア管弦楽団」
自分が入団した当初は「東京藝術大学管弦楽研究部」と、まるでサークルのような名称であった。それ故、演奏会の度に「教員で構成されたプロのオーケストラ」と紹介しておかなければならなかった。
自分もこの名称が正直いって大嫌いだった。早いとこ改名してくれと、切に願っていた。思うに「大学」と入っているだけでもう誤解を招くので、自分としては例えば「東京国立管弦楽団」のように、国立大学に属する事を何らかの形でアピールすれば良いのに…と思っていた。
その後漸く「藝大フィルハーモニア」となり、また2017年に「日本オーケストラ連盟」に加入したのをきっかけに、お尻に「管弦楽団」がくっ付いて現在に至った。因みに「管弦楽研究部」という名称は、まだ藝大内では残っている。その楽員は現在は「演奏研究員」という肩書きだが、外部には「非常勤講師」とプロフに書いていいそうだ。その方が「箔」が付くし、ローンを組んだりするにも便利に使えるというものだ。
食べていけない
そしてこのオケの肝心な給料だが、ある意味もう入った時点で額はほぼ決まっている。1時間あたりの単価が30歳位までの人だと3,800円、それ以上は5,100円。これ以上はもう絶対に上がらない。年間の時間数は340時間。つまり年に約130万円か175万円、これだけである。
完全なる「パートタイマー」なので、交通費は別途支給されるが、福利厚生関係は全く無し。他のオケならよくある「首席」「消耗品」等、一切手当は出ない。175を12で割るとひと月あたり14.5万円程だが、月毎に時間数が違うので、例えば活動しない8月や3月分はほぼ無給となる。つまり9月と4月はかなり生活が厳しくなる。
とはいえ、この時間分はオケに出なくても貰えた。特殊な職場だから、例えばトロンボーンや打楽器など、編成の小さいプログラムで必要のない時は勿論出勤しなくても支給された。いうなれば「有給休暇」みたいなもので、勿論楽員達は皆常識的な範囲で、お互い協力しながら降りてきたし、「降り番願い提出→会議で検討」という行程も経たりしている。
だがしかし!2023年度からはそういう場合は時給が50%カットされる事になった。例えば他の仕事が重なって降りるのであれば、それはあまり文句も言えないが、編成が小さいので乗りたくても乗れない「降ろされ番」やコロナにかかって休まざるを得ない場合も給料は半分となる。尚コンサートマスターだけは、これは適用されないらしい。
これとは別に、Gフィルには外注の仕事もある。楽員の間では「網かけ」と呼ばれているシリーズで、これは乗った人だけに出演料が支給される。戦没者追悼式・Jr.アカデミー関連・地方公演等がそれである。他に台東区による第九や音楽鑑賞教室もあったが、コロナにかまけて最近はやらなくなった。額は拘束時間にもよるが、大体2〜4万円位。但し、学生のエキストラは減額されたり無償だったりする。
近年日本の給料は上昇傾向にあるが、藝大フィルハーモニア管弦楽団だけはこのように「逆走」している。先述の50%カットの理由は「電気代が高いから」だそうだが、上手にやりくりしていけば「降ろされ番」の人にこんな迷惑をかけなくても良いだろうにと思うが、おそらく運営する方も所謂「楽隊アガリ」なので、その手のノウハウについては皆挙って疎いのだろう。
ジャンヌダルクはいない
先程の名称の話に戻るが、どうしても「藝大」と付けなければならないのは、藝大の中の機関だから当然かも知れないが、それ故国の定めた様々な制約がそのままオケに降ってくる。その中でまあ何とか上手くやっていくしかない様子は、何となく某国の国民を彷彿とさせる。つまり問題を解決するには、もう「藝大」から離れるしかないだろうと思う。それができないのは、やはり「約140年続く日本最古のオーケストラ」という足枷にもよるが、何よりそんな事を言ったりやったりする手間が面倒だ。昔、メンバーの中で本当に何か“上”に意見をしたジャンヌダルクみたいな人がいたが、クビになってしまった。不当な事だが、そこで闘うよりも他のオケや職場に移った方がマシという訳だ。実際離職率も非常に高いオケで、自分の在籍中に管楽器だけでも20人程定年前に辞めていったか。
居心地はそんなに悪くない
だが実際のオケの現場は、そんなに雰囲気は悪くない。まさに「アットホーム」で、自分はとても楽しかった。周りは皆上手いので、アンサンブルに関してはほぼストレスはなし(但しそれは2010年から2020年位までの間)。このまま我慢して定年を迎えるのも悪くはなかった。
とはいえ、流石にもうコリゴリだなと思う理由は4つ。1つは日々の通勤時の交通事情で、入団した頃に比べてどんどん電車内が混んできた事だが、あとの3つは本当に深刻だ。それは「プログラム」「指揮者」そして「運営委員会」だった。これについては別記事でこれから暴露していこうと思う。