ソロ・アンサンブル,  作曲家・作品

マメールロア・マメールロア・マメールロア

昨年8月の或る日、同僚のクラリネットの方からLINEが来て、ラヴェルのバレエ組曲「マ・メール・ロア」を、木管合奏+ピアノ用に編曲してほしいとの事。

この曲は自分もオケで吹いた事があるが、元はピアノ連弾用で、作曲者自身が2管編成のオーケストラ用に編曲し、今日でも親しまれている名曲である。今や元譜はネットで取得できるが、昔ハンガリーに旅行で行った時にたまたま買ってあったスコア(当時の通貨で200円位だったか!)が役に立った。

2つ返事で引き受けたものの、〆切が矢鱈と早い。9月中旬に本番だそうだが、ということは遅くとも8月中には仕上げなくてはならない。尤もコロナ禍で、仕事も休みになって暇だったから、この年のお盆以降はずっとこれにかかりっきりであった。

ひと通り編曲し終えてホッと一息ついてから、一応最初のLINEを見直してみる。すると、よく読んでみたら気になる事が書かれていたのに気づいた。「全曲版のプレリュードもちょっと加えて」と。マ・メール・ロアは5曲からできているが、このLINEを見るまで「全曲版」があるとは知らなかった。慌ててその「プレリュード」も短く纏めて追加。要するに原曲をカットしながらという訳だが、できるだけ自然に、カットした事が判らないようにというのは、結構面白くも悩ましい作業なのだ。

8月末日、かくして無事に全曲納品。この曲の編成はフルート2・クラリネット1・ファゴット1、そしてピアノだが、この団体の何回かあるコンサートシリーズで、1回だけ代わりに自分が出演して吹いた事もあった。

さて、一連の編曲&演奏が終わった11月の或る日、またLINEが。この編曲版マメールロアをコンサートで聴いたとあるクラリネット奏者の方が、是非自分のコンサートでもこの曲を採り入れたいとの事。但し編成が微妙に違って、今度は弦楽器が入るそうだ。なのでまた一から作り直さねばならない。

確かに、前回のデータがあるからあっちのメロディーをこっちに移して…というコピペみたいな作業がメインであるものの、パートが変わればやはり細かい事情が変わる。特に弦楽器に関しては、ボウイングや弦の都合もあるからなかなか一筋縄にはいかない。

そうこうするうちに編曲料が振り込まれて来た。そう、これは例の「文化庁の特別支援事業」のコンサートで、このような“前金制”は自分的には尻を叩かれているようで、一日も早く納品しなくてはという気持ちになる。ただ、本番は今度の5月だそうで、日にち的には余裕がある。

そうして今月4日、楽譜を揃えて無事に納品。流石にこの「マメールロア」はとても素敵な曲なのだが、当分の間は演奏も含めて距離を置きたい。ある程度月日が経ってから、新鮮な気持ちでまた吹いてみたいものだ、と思っていた矢先…

同じクライアントの方からメールが来た。「編成が違います」と(!)

自分が編曲したのはフルート・クラリネット・ヴァイオリン・チェロ・そしてピアノの5人用。ところが注文では弦楽器はヴァイオリンのみだった。確かに最初のメールを見直しても、チェロの「チ」の字も入っていない。何処をどう勘違いしたのか、とにかく自分の大チョンボである。

クライアントの方も悩んだそうだ。自分で直そうか、それとも本当にチェロを入れようか等…それを考えると頗る心苦しい。とにかく再びMacBookを開いて、急いで作り直す。編成を増やすのは比較的楽だが、減らすのは逆にやりくりが難しい。それでも自分のミスなのだからと三たびこの曲と向き合い、1週間で仕上げて再発送を終えた。

編曲作業に入る前に、編成については何度も確認すべし!……解っているつもりが、返す返すも迂闊だった。

丁寧に製本して…

顧みれば、最初のLINEで編曲に手掛けてからここまで実に8ヶ月。その間、ずっとではないがこのラヴェルの名曲に関わっていたことになる。編曲しながらつくづく思っていたが、この曲には不思議な魅力がある。ミステリアスでもあり、ノスタルジックでもある。

それ故“魅力”が“魔力”となって、さながら呪縛のように自分に絡みついて来たのかなとも思うと、本当にこの先これでこの曲から“解放”されるのかどうか…ちょっと不安にも感じるのである。

余談だが、そういえば6年程前、オケの出勤途中に不覚にも転んで右手を怪我し、痛みに耐えながら吹いた曲がこの「マ・メール・ロア」だった。よりによってピッコロのテクニカルなソロがあり、精神的にもかなりキツかったのを憶えている。やっぱりこの曲には何か因縁でもあるのかな?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です