思い出

もう永久に食べられないあの味

G大の「芸術祭」に久しぶりに家族で足を運んでみた時のスナップ。2001年の9月だったが、ここは美術学部にある学生食堂「大浦」にて昼食を食べて寛いでいる時であった。

あれから20年後、まさかこの人気の食堂が閉店する事になるとは…。

勿論つい最近までは、ちょくちょくここを利用していた。最近は、オケのリハが始まる前に、ここでコーヒーを1杯飲んでから仕事場へ。

だがそれも、昨年の第一次緊急事態宣言で一時的に登校禁止になって以降はずっと止めていた。その理由は、いちいち美術学部の守衛所で入校手続きするのが面倒だったからである。

そのうちこうしてCOVID-19が蔓延、緊急事態宣言が発令され、そして解かれて、国内の小中学校と高校は既に活動しているというのに、大学だけはいつまでもオンライン講義とかいって怠けている始末。流石に音楽学部のレッスンは今は対面式が復活しているようだが、こうなると学生だってそうそう昔程は学食にも足を運ばなくなる。嘗ては大学美術館に観覧に来た一般客もこの食堂には入れたが、コロナ後は感染防止の為にそれも禁止となった。売り上げは悲劇的な激減であろう。

昨今「コロナ閉店」する飲食店をあちこちで見かけるが、我らが愛すべき「オーウラ」も少なからずその大波に飲まれてしまった訳か。

奏楽堂と美術館

1998年、音楽学部では新奏楽堂が開館した。美術学部ではすぐさま「音校にホールを作るんなら美校にも美術館を」と政府に直訴し、そうして現在の芸大美術館がその翌年に開館した。そもそもその土地には昔の「大浦食堂」があったので、それを一旦解体し、新美術館の1階に改めて「大浦」をオープンした訳である。学内にあるとはいえ、直営ではないので“家賃”を大学に払わなければならない。立派な美術館内に店を構えた途端、その家賃は4倍に跳ね上がった!と聞く。その影響がメニューの値段に反映しない訳がない。

そして名物「バタ丼」

肝心の大浦食堂のメニューの味といえば…まあはっきり言うと「普通」である。学生=若者はよく腹が減る。するといわば「空腹は最良のソース」なのであり、冷えたアジフライやメンチカツとかトロトロワカメと“す”の入った豆腐の味噌汁とか、別に空腹なら何でも良い。仲間同士ワイワイとお喋りしながら食べるから、味なんてそんなに気にしない。

でも中には本当に不味いメニューがあったらしい。自分は食べたことがないが、それはカレーライスだそうだ。あまりに不味いので、とある雑誌が「東大と芸大のカレーを食べ比べてみた」という記事を出した事がある位だ。カレーなんて不味く作ること自体、逆に難しいと思うのだが。学生の頃は「おいあれ見ろよ、あいつカレー食ってるぞ」なんて誰かが指差しているのを見たことがある。それ程までに、ここでカレーライスを食べるというのは勇気の要る事だったようだ(笑)

一方、芸大出身者にとっては畏らくソウル・フードともいえるであろう大人気メニューもあった。「豆腐のバター焼きどんぶり」略して「バタドン」だ。別に丼に入っている訳ではなく、深めの中皿に盛られている。写真は敢えてここにあげる事もないだろう。今や「バタ丼」とネットで検索するだけで、ドバッと画面に出てくる。ご飯の上に豆腐ともやしが乗っているアレだ。

値段は当時確か250円程か?自分などはよく+50円で「玉子入り」を注文していた。半熟の目玉焼きが乗っていて、スプーンで黄身を崩して程好く絡めていただく。プルプルの豆腐に良い具合に纏わり付いた玉子が、シャキシャキのもやしとそれこそ口の中でホド良いアンサンブルを奏でていて、思わず無口になる位旨かった。。。

だが先の家賃上昇により、最近はこれも500円位になった。それでもまあ、今の時代では相応の値段だと思うが。

オーウラのオバーチャン〜オジーチャン…

自分はここの学生を終えたらすぐにここのオケに就職したので、とにかく「大浦」にはもうかれこれ40年位足を運んでいた事になる。

その最初の10年位か?注文や会計は元気なお婆サンが仕切っていた。何でもテンポよくサッサとこなしていた。混んでいる時に迷っていると叱られそうなので、こちらも何を食べるかちゃんと決めてから“戦闘態勢”に入る。その時に若い兄チャンもアシスタントでいたが、そのお婆チャンが亡くなってからはこの兄チャンが大浦の後を継いだ。そうしてこの兄チャンはいつしかオジサンになり、爺チャンになった。

バタ丼の味はその間ずっと受け継がれていて、昔も今も変わらない。作るのは簡単そうなので、何度自宅でそれを再現したが、どうも味が違う。実はバターではなくてマーガリンを使っているそうで、真似してみてもやっぱり何か違う。

あの味、もう永久に食べられないのか?
本当に残念でたまらない。

そして本日を以て閉店

東京芸大には他にも音楽学部に「キャッスル」という学食があり、他にも大学美術館の2階にホテルオークラの経営する喫茶店、そして周りの上野公園や所謂「谷根千」にいろいろな飲食店がある。最近は「キッチンカー」も来ているし、生協では弁当類も充実しているので、学生達の胃袋についてはそう心配はなさそうだが、「学食」というのはただ飲食するだけではなく、集うところでもある。混んでいなければ、長い時間ずっとお喋りもできる。そんな場が一つ消えてしまった訳だが、噂では「キャッスル」さえも近々閉店とか(!?)。

それでなくともコロナ禍でリモート講義だったり、大人数の実践授業ができなかったりで、今の芸大生は我々の時代よりも「思い出」が少なくなると思う。それが卒業後の芸術活動にどう影響されるのか、ちょっと気になるところである。

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