オーケストラ

「コロナ」に阻まれた「コロン」

2つのスーツケースを抱えて成田空港に向かう。地球の裏側南米にて3年ぶりの演奏旅行がこれから始まる。

5日前からリハが重ねられてきた。自分も片言のスペイン語を勉強してみた。楽器運搬の都合上、どうしても南米大陸に直行という訳にはいかないそうで、今回もヨーロッパ経由。3年前のチリ公演の時はパリ経由だったが、今回はフランクフルト経由。またもや地球を3/4週、片道30時間の試練が待っている。

目的地は2ヵ国ある。先ずはウルグアイの首都モンテビデオにある「ソリス劇場」、次に隣国アルゼンチンの首都ブエノスアイレスにある「コロン劇場」、どちらもびっくりする程美しいホールで、ブラームスやドヴォルザークの交響曲や邦人作品等演奏。僅か1週間の間にこのような過酷なスケジュールをこなしながらも、有意義な南米の“夏”を体験して来ようと思う。

来月2日に帰国予定。無事に帰れますように…

…の筈だった。

しかし現実はこの通り、自宅にいる。現在の南米の感染状況は信じられない程酷くなっているが、この演奏旅行の中止が発表されたのは、まだそれ程感染が広がっていない4月初旬の事である。それだけGフィルは対処が早かった訳だが、尤もこの頃は丁度“緊急事態宣言”が発令された頃である。

自分だって、そろそろ感染の危険故行きたくないなと思い始めた頃だった。だが自分が行かないとなれば、その分エキストラで行く誰かが感染の危険にさらされる。そんな事はできないな…本当に本当にどうしよう、と思っていた矢先であった。

だから「中止」の連絡が来た時は、正直言ってホッとした次第である。

南米。まさかこんな地球の裏側まで飛ぶとは、夢にも思わなかった。だがとにかく3年前には、チリに行って来た。異国というのは(勿論国にもよるが)帰る頃にはもの凄く現地への愛着が根強くなって、帰国後“ロス”になるものだ(自分もあれから見事にチリ・ワインしか飲んでいない)。そういう意味では、幾らハードワークとはいえ、やはり心の何処かでこの「ウルグアイ・アルゼンチン公演」を楽しみにしていた自分が居る。

尤もこの公演は「中止」ではなく、1年以上先に「延期」とされている。

ただ、このCOVID-19が完全に収束し、再びこの演奏旅行に行けるようになったとしても、その頃自分は定年退職しているかも知れない。自分は丁度その微妙な年齢なのである。

今現在は「行ってみたい」「行きたくない」と両方の気持ちが渦巻いているが、いずれにせよとにかく先ずは1日も早いCOVID-19の収束、これを望むしかない。

コロン劇場はパリオペラ座・ミラノスカラ座と並んで世界三大劇場と呼ばれる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です