大切な大切な…とても大切な仲間
嘘だろ?! 此奴は何てふざけたメールを回すんだ、これじゃ当の本人に失礼極まりないだろ!と、最初は目を疑った。電車の中でうつらうつらとしている最中に来たメールだから、夢かなとも思った位だ。その内容は
「当団ファゴット奏者の依田氏が急逝した」というものであった。
大好きな、そしてオーケストラの皆んなに愛されていたヨダッチが死んだだと!? ちょっと待て!先々週まで一緒だったじゃないか。元気にビシバシ吹いてて楽しかったじゃないか。一体何故!?
聞くところによると、地方都市にあるプロオーケストラへの賛助出演の為、移動中の車内で急に倒れ、そのまま逝ってしまったそうだ。実はこういう例は前にもあった。いつもお世話になっていたM教授、これについては過去に記事を書いている。例えばいつも太り過ぎでフーフー言ってたとか、血色悪そうだとかは一切なく、言うなればオケの中で最も長生きしそうな感じの彼であった。かのM教授との共通点といえば…確かにちょっとだけ膨よかな体型ではあったが、でも全く気になる程ではなかった。
顧みれば自分が若い頃、ファゴットの席に厳しい先輩が座っていて、自分は毎回緊張しながら吹いていたものだ。その先輩が退職し、程なくしてヨダッチが入って来た。後輩なので気が楽になる嬉しさもあったが、それよりも彼のファゴットの上手さに驚いた。何て上手な人が来てくれたんだろう。彼と一緒に吹いているうちに、それまでの演奏し辛さは何も自分のせいばかりではないんだなと、後になって気付いた次第である。
ヨダッチは首席奏者なので、いろいろなソロを聴くことができた。第九・ショスタコーヴィッチの交響曲第8番・チャイコフスキー4番5番6番・ラヴェルPf協・ショパンPf協・春の祭典etc. もう彼が座っていると“安心感”しかない。自分が1st.を吹いている時などは、頭のすぐ後ろで吹いているのだから、ある意味特等席で聴けた訳だ。
話も上手だった。しかも面白くて、よくオケ全体にウケていたものだ。英語も堪能で、5年前のチリ公演の時などは個人的によく助けて貰っていた。イニシャル「Y」のせいで自分とヨダッチは機内ではいつも隣の席。とはいえ、あまり着席することもなく、サービスワインを一緒に飲みに行っては飛行機の尻尾の方で盛り上がっていたものだ。
ああ…今となっては、そんな楽しい楽しい思い出しか浮かばない。
何故死んだんだバカヤロウ!
告別式の日時がGフィルのリハーサルと重なってしまったため、降り番以外のメンバーは参列できなかったが、前以て対面することはできた。翌週初めに会いに行き、安置室に入ると、いつものように(失礼ながら)ちょっととぼけた顔がそこにあった。普通に寝ている。なので「おい、明日乗り番だろ?いつまでもそんな所に寝てるんじゃないよ」と、涙を堪えて声をかける。
そうしてヨダッチが荼毘に付された翌日、Gフィルは「モーニングコンサート」の本番を迎えた。自分は、きっと彼はこのステージに来ている筈、と思って演奏した。どうせ来てるんだったらちゃんと仕事して欲しいのに、何でエキストラに吹かせて自分は見てるんだろう?と、心の中で呟きながら。
ファゴット奏者:依田晃宣さんのご冥福を心よりお祈り申し上げます。