敬愛する我が師匠(4)〜キューピッドのマーチ
川崎優先生は作曲家としても多くの作品を残してくれた。フルートや吹奏楽は元より、オーケストラ・弦楽・オペラ・合唱・ピアノ・そして校歌…etc. 編曲集も多数出版されている。その作風はいろいろある。子供向けの純粋な感じのメロディーから、「12音技法」という複雑な作曲法に基づく現代音楽まで。思わずノスタルジィに浸ってしまうようなのもあれば、物悲しさに涙してしまうような名曲もある一方…
「敬愛する」という以上はその全てを絶賛すべきかも知れないが、、、実は正直言って理解に苦しむ曲もまあチラホラ。以前「茅笛の会」の公演楽屋にて、川崎先生のとあるオリジナル曲をさらっていたK先生が思わず「しかしまぁ、何度吹いても、おもろない曲やなァ」とこぼして、楽屋内が大爆笑だったのを憶えている。
そんな中、川崎先生が1983年に吹奏楽連盟の委嘱により作曲されたコンクール用課題曲「キューピッドのマーチ」という吹奏楽曲がある。これについては昔にも同じような記事を書いたが、あまりにもインパクトが強いので、ここで再び記しておきたい。
メロディーやハーモニー等、曲構成は極めて単純で、いや単純すぎるせいか(失礼ながら)この曲を選択する学校は少ないかも、と当時は思っていたのだが…
変ホ長調、2分の2拍子。いきなり下降型の音階から始まる8小節のイントロ。
明朗な第1テーマ。このメロディーの特徴は、完結する所でいきなり同主調(変ホ短調)になる点。これにはビックリさせられた。まるで「蒲田行進曲」的なユーモア。
続くつなぎの部分では、途中から先程のイントロが途中から重なり、合わなそうで合うようになっている。
また第1テーマ。お決まりの中低音のオブリガート付。そこここにいろいろな長さのクレッシェンドやデクレッシェンドがあって、音楽をもり立てる。
また音階が出て来て次にトリオへ。変イ長調のテーマは分散和音が主体。それからの盛り上がりが作曲者独特の和声展開だが、特に型を崩す事なく、極めて平和な雰囲気でこの行進曲を閉じる。
専門用語が並んでしまったが、つまりまさにマーチの基本中の基本とも言える曲。結果的に純粋で素晴らしい名曲なのだが、逆にバンドの能力(音色・音程・リズム感etc.)が一発で解ってしまう曲でもあるのだ。なのでプロでも調子の悪い時などは、あまり演奏したくないだろう。毎夏の課題曲は(変な新曲が並ぶよりも)この「キューピッド」とスーザのマーチだけで十分だと、真面目にそう思う。
どんな経緯か忘れてしまったが、実はこの曲の作曲者直筆サイン入りの楽譜セットを自分は持っている。これを使う機会はまず無いかも知れないが、自分にとっては宝物の一つである。
川崎先生は9曲の校歌も作曲しているが、そのうち埼玉県の「川越東高校校歌」は自分がこの学校で一時期教えていた際に、先生に委嘱したものである(当時は新設校だった)。
また、2007年夏の甲子園全国高校野球大会14日目の準決勝戦は、広島の広陵高校対静岡の常葉菊川高校戦だったが、両校共校歌は先生の作曲である。つまりどちらが勝っても、甲子園には川崎先生の曲が流れる訳で、こういう機会は後にも先にもまず無いだろう。NHKも少しはこの辺の事、話題にして欲しかったナ。
(次記事へ続く)