オーケストラ

惜別

自分が若い頃はよく他の様々なプロオケにエキストラで使ってもらっていたが、その頃の正団員の中には隣りで吹いていて「この人大丈夫かな」と思わず心配してしまう事が何回かあった。何がどう心配なのか、要するにかなりヤバい状態なのだ。雑音が酷く、白い音符がちゃんと延ばせない、ビブラートなのか単なる震えなのか区別がつかない、ピッチも不安定、何でこの人団員やってられるのかな?既に年配だから誰も文句言わないのかな(陰でボロクソ言っている場面には何度か遭遇した事はある)。

自分も歳をとるとこうなるのかなぁ…と心配していたが、別に誰しもそうなる訳ではなく、総ては日々の精進によると理解できたのは、まさに自分の所属するGフィルの同僚Aさんの素晴らしさによるものであった。

定年退職

そして…その同僚のAさんが、この程Gフィルを定年退職された。今の時代、60歳定年なんて時代遅れも甚だしいオーケストラだが、こんな素晴らしいフルート奏者を何故無理矢理辞めさせるのかと、自分は心底藝大に憤慨している。つまりは、先に述べたような欠点はひとつもなく、どこまでも美しい音色、年齢など微塵も感じさせない優れたテクニック、そして溢れる音楽性…彼女の笛は恐らく万人を幸せな気分にさせるであろう。

そして自分はこのAさんの隣りで33年も仕事してきた。Aさんは笛だけでもなく、性格も女神様のようで、それでいてユーモアとウィットにも溢れているので、自分にとっては本当に楽しい職場であった。

秋の定演を終えて

当然ご退職を境に、Aさんはパタッとオケには乗らなくなる。以前からAさんが降り番の時は自分が1st.に上がって吹いていたので、その後暫くはその延長のような気分だった。

だが今回の定期演奏会、メインプログラムのサン=サーンス交響曲第3番「オルガン付」が盛大に終わってカーテンコールが続いている中、何か自分は空虚な気持ちでいっぱいだった。「誰か1人足りないな」という…そしてこの時初めてもうAさんは居ないんだなと実感し、後で何だか泣けてきた。

そして後任のフルート奏者もオーディションで決まり、このようにオケのメンバーも代替わりしていく訳だが、気付いてみると自分が来年その60歳を迎えようとしている。いつの間にかオケでは最年長となってしまうが、こんな風に「湯本は何故定年⁈」と周りの皆んなに勿体がられる奏者になりたいものである。

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