オーケストラ,  藝フィルレポート

コロナと声楽

演奏形態の中でもとりわけ飛沫やエアロゾルによる感染が懸念されているのが、声楽と管楽器だ。管楽器については最早マスク着用は不可能。声楽は可能だが、声そのものが妨げられるリスクはどうしても避けられない。

昨年G大は従って声楽関連の定期演奏会は中止を決定。オペラと合唱である。だが今年は幾ら何でも2年連続中止という訳にはいかず、世の中が五輪や第5波感染拡大に翻弄される中、敢えて両公演共開催に踏み切った。しかしその形態は、それまでとは大きく異なるものであった。

感染防止対策オペラ

今年のオペラの出し物は、モーツァルトの「魔笛」であった。

歌手達は全て、オケ合わせまではマスク着用のまま歌っていた。キャストはそれぞれ指定の位置に間隔を開けて立ち、そしてその間には透明の仕切りが設置されていた。

ご存知の通り、物語の途中ではパパゲーノがパンフルートを吹く場面が何度かあって、その為にはどうしてもマスクを外さなければならない。その時にはスタッフがわざわざ歌手の前面にまで仕切り板を運んで来て、吹き終わったらまた撤去。かなりの気遣いようである。当然声とオケのバランスが判らなかったりするが、そんな事は言っていられない。

そしてG.P本番、流石にマスクは外して歌うが、仕切り板は何と設置されたままだ。タミーノもパミーナも、パパゲーノもパパゲーナも、3人の侍女達も3人の童子達も皆それぞれその囲いの中で演技をし、歌う。合唱団はというと、舞台後方でそれぞれ2m程の間隔を開けて立ち、そしてマスクを着用、但しこれは例の「教団」という演出だから、皆同じ色とデザインによって全く違和感がない。ついでにいえばその仕切り板すら、前面に何枚もデン!と設置されているのに、舞台照明の影響であまり目立たなかった。

このようにして10月9&10日、無事に公演が終了した。感染防止対策を施しながらも、このように立派に公演ができるじゃないかと、自分は今回とても感動した。皆で一生懸命考えて頑張ったのだろう。出演者とスタッフの皆さんには、心から拍手を送りたい。

但し一方、懸念材料もある。それはオケピット内だ。これまでよりも奏者同士の間隔は開けたようだが、それでも特に管楽器周りはエアロゾルはモワッと発生していただろう。吹いていると、そんな空気の溜まり具合を肌で感じたりする。こちらにも何らかの仕切りを設置したり、もっと換気を頻繁にしたりすべきではなかったかと思う。

幸いその後、オケ内での感染報告は無かったようだ。時期的にも皆ワクチン接種済みか、丁度世間も感染者が減少してきた頃だったが、もしこれが数ヶ月早いスケジュールだったら、もしかしたら危なかったかも知れない。

「魔笛」の舞台

感染防止対策合唱定期

そしてその1ヶ月後、今度は合唱定期演奏会が開かれた。演目はベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」(荘厳ミサ曲)。80分以上に及ぶ大曲である。オーケストラは2管編成と標準だが、合唱そしてソリスト4名が後ろに付くと、ソーシャル・ディスタンスを確保するには相当のスペースが必要になる。

オケは客席の前列を潰して、ピットの位置までググッと迫り出して配置。管打楽器は横に広がって奥行きを削り、後方3m程開けてソリストと合唱。ソリストはマスクは外して全曲歌っていたが、合唱は収容人数が限られてしまうので、前半後半で2体に分かれて出演。合唱団といえば“密”に並んでいるイメージが強いが、今回は団員同士がスカスカで、舞台への入退場もそれぞれバラバラのタイミング。全てこの“密”を避ける目的である。

G.P前の風景。後ろの椅子が合唱団の席(本番は立唱)

驚いたのは、このように通常の半数&マスク歌唱にも関わらず、合唱の音圧がグイグイとこちらに迫ってきた事。流石はG大声楽科、ハンディを感じさせない立派な声量だ。これで本来の形態だったら、もっと凄い事になっていたであろう。

期待はずれの年末

かくして、感染防止対策を施した2つの声楽関連コンサートは大成功を収めた。これなら年末の「第九」や「メサイア」もいけるだろうと思いきや…これらは早々に中止になってしまった。それぞれそれなりに理由があるようだが、その詳細は忘れた。だが思うに、中止に至った一番の原因は主催者のモチベーションの低下であろう。至極残念である。

日本プロオーケストラ連盟に準会員として参加している我が藝大フィルは、かくして12月で一番暇なオーケストラとなってしまった。何せ稼働日がたったの1日しかないのだから。

だから当然自分も予定がポッカリと空いて、これまでになく暇な年末となった。誰か仕事ください。

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