オーケストラ,  作曲家・作品,  藝フィルレポート

指揮者の振る通りに吹いてはいけない

ところで今回のシリーズでは、これまでにない演奏上のとある経験をした。
それは指揮者の振る通りに吹いてはいけないという事。そんな場面が何箇所かあって、これが意外と大変な作業であった。一体それはどういう事か?その内容は主に3つのシテュエーションに分かれる。

「13人の奏者の為の室内協奏曲」より

指揮者はで囲んだ数字の間を4拍子で振っていくのだが、例えばフルートパートについて言えばその㉙と㉚の間がどう見ても5拍半ある。つまり指揮者が4拍出す間に自分でその多い分を均等割りして吹いていかねばならない。この辺りはこういうのが延々と続く。
また指揮者の手が途中で止まる事がある。次に動き出すまで15秒位あり、その間自分のパートは11拍分の音符がある。その15秒と自分の11拍が長さ的に一致するかというと、まさに出たとこ勝負。中々上手く行かず、早過ぎたり遅過ぎたり。
本番ではちょっと吹くのが早過ぎたようだ。「え?まだなの?」なんて最後の音を妙に長く延ばして待ってたり(笑)

「13人の奏者の為の室内協奏曲」より

ただピッコロでGを同じ間隔で連打して行くのみ。しかし!指揮者は次第に他のパートの為にテンポを緩めていく。パート譜には「指揮者に関係なく自分のテンポを維持するように」と書いてある。
まあ、棒が目に入らないように吹いていけば済む事だが、ここがリゲティの凄いところで、ほぼ全員がこのように演奏すると、スコア上では皆終わってもピッコロだけが8発位音が残るよう、ちゃんと計算されている。だがなかなかそうウマくはいかない。書いてある通りに吹き終わろうとしても、まだ周りが演奏している。仕方なく自分だけになるまで何発か吹き足していたり…周囲の“障害”に惑わされず自分のテンポを維持するのは意外と困難なものである。
よくアンサンブルのレッスンなんかしていると、たまにそういう生徒さんがいて、自分独りだけのテンポでどんどん進み、パートナーに迷惑をかけちゃったりしているが、この時ばかりはそんな“特殊能力”(若しくは図太さ)が羨ましく感じた。

上記2つのパターンはまあ余程のマニアでもない限り、ミスっても誰にもバレないだろう。作曲者は死んでるし、お客さんにも、もしかしたら指揮者さえ判ってないだろう。いわば自分の中だけのゲーム感覚的な勝負をしていた。なので負けても周りへの影響は殆どない。
しかし!次のシテュエーションはそういう訳にはいかない。
(続編に続く)

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