オーケストラ,  藝フィルレポート

中止とか差し替えとか

中止

…いつも通り、普通にリハーサルは行われた。

「第7回モーニングコンサート」のプログラム前半は、作曲家の学生による新作と、コルンゴルト作曲のヴァイオリン協奏曲。自分はこの新作のpiccoloのみを担当していたので、後半コルンゴルトは出番がなく、一足早く上がれた。実に久しぶりのことである。帰宅後、1通のメールが。

何と「このシリーズの指揮者が新型コロナウィルスに感染した」との事。

差し当たり次のリハは中止。本当に行かなくても良いのかどうか、皆不安がってラインで連絡を取り合っている。事務局としてはその間、代わりの指揮者を血眼になって探しているのだろう。今週のプログラムはよりによってかなり複雑な内容の曲で、仮にコルンゴルトが経験済みだったとしても、変拍子だらけの新曲についてはお手上げであろう。

結局第7回モーニングは、コンサート自体が中止となった。1回練習しておきながら中止となったのは、初めての経験である。尤も正確には「中止」ではなく「延期」かも知れない。前半の新曲は実は「ソロピアノと管弦楽のための」という曲なので、共演ピアニストがいるし、コルンゴルトを弾く予定だったソリストも、折角さらったのにこのまま終わりでは気の毒すぎる。ただ、ではいつになるのか、指揮者とソリストと作曲者とオケと、そしてホールのスケジュールを合わせるのは、とても困難な作業になるであろう。

ところで、中止になったのはこのコンサートだけではなかった。今回の指揮者が振ることになっていた藝大の学生オーケストラも本番がボツになった。こちらはメインがR.シュトラウスの交響詩「英雄の生涯」かなりの難曲故に相当練習を重ねてきたと思うが、こちらも曲が曲だけに、おいそれと代わりの指揮者が来られる状況ではなかったと思う。

このモーニングコンサートにせよ、学生オーケストラ演奏会にせよ、既にチケットは販売されていたので、払い戻し等の事務作業は大変だったと思う。コロナでコンサートが中止になるってことはこういう事なのかと実感した。今現在、日本の新規感染者数は世界一だそうである。最早10人に1人の割合でこれにかかり、知人友人も結構“経験者”が増えてきた。本当に気をつけないと、自分がこのように周りに迷惑をかけかねない。

余談だが、1回リハをしておきながら指揮者が出演不可能になったという出来事は、これが初めてではない。

忘れもしない2007年6〜7月のモーニングコンサート。リゲティという名の胡散臭い指揮者は、初日のリハで何がやりたいのかさっぱり解らないリハをつけた挙句、2日目のリハは突然降りてしまった。お蔭でオケはてんやわんや、指揮科の学生まで繰り出して本番をなんとか乗り切った。翌週リゲティは性懲りも無くまた指揮台に立つ。先週は高熱を出したから休んだというが、それにしてはピンピンしている。そして信じられないことに、またもや2日目は勝手に降りてしまった。これまでに遭遇した最も無責任な指揮者だったが、周りの教員達もその辺りは薄々感じていたのであろう、2週目はすんなり代わりの指揮者が登板して事無きを得た。

たった一人の無責任な行動で、周りが振り回されたこんな酷い状況だが、兎にも角にも2回共コンサート自体は開催できた訳なので、まだマシな方だったのだ。今回の代替公演案はまだ出ていないが、さてどうなることやら。

差し替え

今月に入って最初の「第9回モーニングコンサート」、今度はソリストが濃厚接触者となった。2曲中1曲削られる形となるが、残りの1曲というのがよりによって作曲科学生による新作(例によって訳の解らない雑音みたいな音楽である)。これだけというのはあまりにもコンサートとしては烏滸がましいと判断したのか、もう1曲急遽加えることとなった。謂わば元の協奏曲が差し替えられた形となる。

その曲とは…なんとチャイコフスキーの交響曲第4番、勿論全曲である。

自分は実はこの週降番だったが、急遽呼び出された。元々フルートは2人で賄えた編成だったが、“チャイ4”はもう1人、ピッコロが必要である。いきなり大曲への差し替えにオケは騒然となっていたのは、至極もっともであろう。他のオケだったらストライキが起こっていたかも知れないが、そこは羊のように大人しいGフィル、指揮者や事務局のなすがままに演奏させられた感じである。

かく言う自分はではどうであったか?自宅待機中にやろうと思っていた事を全部後回しにしせざるを得ない不満はあるにはあったが…実はこれは天が与えてくれた千載一遇のチャンスだな、と個人的には思っていたのである。

チャイ4のピッコロといえば、オーケストラの入団試験には必ずと言っていい程出てくる一瞬のソロがある。

第3楽章より

これがなかなかの難曲なのだ。どんなベテランでも完璧に演奏するのは至難の業で、奏者達はこれを吹きこなす為にただ練習を積み重ねるのみならず、メンタル・コントロールまであれこれと工夫する程だ。で、自分の場合は若い時によく本番で挑戦する機会があったが、自己評価としてはなかなか良い成績が出ず、いつも「2敗」か「1敗1分」位だったか(このように2回出てくるので)。

そうして久々にこの曲に遭遇。今や定年直前の自分は、この時初めて「2勝」もしくは「1勝1分」位でいけたかな…?初めて満足に吹けたかも知れない。そして多分だが、もうこのパートは一生吹く事はないと思うから、そういう意味ではオケの中で恐らく自分だけが密かに(差し替えられて良かった)と思うのである。

いやはや、長い人生、こんな事もあるものだな。しかしながら今や自分はGフィルでは最長老(笑)血気盛んな若者達の意見は凄かった。

どんなクレームが殺到したか、それについては後日、別記事で紹介しよう(但しパスワード付の限定公開とします)。

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