オーケストラ,  藝フィルレポート

コシファンとハシビロコウ

今年のG大オペラの演目はモーツァルトの「コシファントゥッテ」であった。
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とにかくこの曲は今風に言えば「神」だ。各曲の旋律・和声・構成・そしてオーケストレーション、全て細部に渡って完璧にできている。
だがそれ故、どうしてもパートにより仕事量に偏りができてしまう。特に大変なのが第2ヴァイオリン。オペラの半分くらいは細かいパッセージをずっと弾きっぱなしである。逆に暇なのが一部の管楽器等。自分の担当する2nd.Fluteもその1つで、3時間半に渡るこのオペラの中で、恐らく2時間分位は休んでいる。
リハーサルではその辺りを考慮して、各曲を編成の大きい順に組み替えて進めてくれる指揮者もいる。今回の指揮者はそんな事は全く考えず、編成の大小関係なくオリジナル通りに進めていた。
これは実はそんなに困る事ではなく、寧ろ利点も多い。返って自分の出番が想定できるし、先に終わって他の楽員に羨望の眼差しで見られる事もない。何よりやはりオリジナルの曲の流れを損なわずリハーサルが進められる。これは大切である。
出番がない時は席を離れて、好きな事がしていられるが、ゲネプロとなるともうピット内なのでおいそれと席を立つ訳にはいかない。本番ではそれどころか、じっとしていなければならない。バルコニー席からは丸見えだし、スマホを開ける訳にもいかない。
なので、その間はとりあえず瞑想している。適度に姿勢を正し、動かないでいる。自分はハシビロコウだと思い込みながら(この鳥、獲物を捕まえるまで何時間も微動だにしない、オケ吹きの手本みたいな鳥である)。
1014dl_0009 ハシビロコウ
だが最近、これって微量ながら運動しているのではないかと思う。背筋を伸ばし、周期的にゆっくりと緩めたりしながら、かなり長めのスパンで深呼吸する。一種の筋トレなのだ。疲れたら背もたれに寄りかかり、美しい音楽にウトウトしてきたところで、そろそろ出番が近づいてくる。
そんな風にして3〜4時間×4日間を過ごしても、必ず終わりはやって来るものだ(笑)終わった時は「やれやれ…」という感じで、やはり本音を言えば「コシファン」はもう懲り懲りだ。懲り懲りだが、実は来年の初めにまたもや演るらしい。
それにこのオペラ、音楽は最高だが、物語は最悪だ。実際、帰路では(恐らく初めてこのオペラを観たであろう)年配の夫婦が、この女性をバカにした話にほとほと呆れ果てたと話しているのが聞こえた。さもありなんと思う。ドイツ人による初の演出も、会場には思った程ウケていなかったようで、ピットではどちらかといえば冷笑に聞こえた。オペラ科も本当にそろそろ考えたらどうだろう?

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