ノスタルジィ
春からずっと取り掛かっていた一連の作編曲を漸く終え、昨夜は気分を変えてジャズ・フルートのコンサートを聴きに行って来た。
ジャズフルート奏者:中川昌三氏は、実は自分が入団する前までGフィルに在籍していた方である。つまり彼が退団したその席に自分が納まったという訳だ。ということはそれまでクラシックとジャズの両方の畑で活躍していた訳で、これはとても凄いことなのである。
入れ替わりではあったものの、自分の大学院生時代にはエキストラとして(正確には『管弦楽実習』の履修生として)中川氏とはよく藝大オケでご一緒させて頂き、大変お世話になった。今の自分がオケプレイヤーとして生きていられるのは、彼のお蔭でもあるのだ。当時は前夜11時位までライヴをしていて、一旦茨城県牛久市(当時)にある自宅に帰り、翌朝9時半からオケのリハという日が続いていたそうだ。同時に芸大や芸高でも教えていて、もう想像を絶する多忙ぶりだった。そんな中でリリースされたソロアルバムはこのような理由でなのか、何とクラシックの名曲を元にしたナンバーだった。全部で4シリーズあり、記念すべき最初のアルバムLPは自分も買って持っている。
さて今回演奏したのはそれらからのピックアップで、とても楽しみにして行った。会場は南青山にある「ジマジン」という小さい店。フルート・ピアノ・ベース・ドラムのカルテットでアンコールも含めて10曲程演奏したか。主なプログラム(引用曲)は次の通り。
ブルグミュラー:25の練習曲より「スティリアの女」
マーラー:交響曲第5番より
チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲より第1楽章
バッハ:G線上のアリア
ビゼー:カルメンよりジプシー・ダンス
実は彼は最近体調を崩されて暫く休養していて、今回はその「復活ライヴ」の一環ということで、初心に返ってこれらのナンバーを再演したそうだ。このシリーズをアレンジしたのはジャズピアニストの佐藤允彦氏であり(今回は石塚まみさん)「このアルバムは僕のというよりも佐藤さんのアルバムなんだよ」と発表当時中川さんは自分に話してくれたが、昨夜も全く同じことを仰っていた。
ではその当時と今日までにどの位の隔たりがあったか?何と30年ぶりなのである。もしかしたらお会いした事自体、30年ぶりかも知れない。大変ご無沙汰してしまった。そして中川氏は現在…そう、実は既に古希を越えているのだが、見た目は元より、その演奏はもの凄くパワフル且つ繊細で(本当に病気されてたのか!?)と思える位若々しかった。特に、目にも留まらぬアドリヴのテクニックには終始圧倒され、そして感動した。まさにこの写真の通りである。
つくづく不思議に思う。還暦を越えて、ただのロングトーンさえままならなくなってくるクラシックのフルート奏者達に時折遭遇するが、ジャズ・プレイヤーって何故こんなに元気なんだろう?中川氏にしてもI上氏にしても、絶対クラシックよりもキツイ筈なのに。皆思いっ切り人生をジャズで謳歌している。ジャズは若さを保つ秘訣なのかな…
そんな中川氏の一音一音、一言一言に自分は30年前のあの頃を重ね合わせて、ノスタルジックな気分に浸っていた。という訳で即ち、自分もGフィルに入団して間も無く満30年を迎えようとしている。とても楽しく、同時に中川昌三さんのヴァイタリティーと探求心を見習って、今後も精進していこうと、気の引き締まるライヴであった。