続・思い出の恩師達
学生時代の師匠や先生って、中にはとっても“ぶっ飛んだ”方とかいて、その思い出を昔の記事で書いた事がある。
今日はその第ニ弾…とはいってもそんな変わった方ではないが、何というか…絶対忘れることのない印象深い先生の作曲科のI野先生の話。
ボク達学生の間では「仏のI野」と呼んでいた。眉毛はいつも8時20分を差していて、いつもニコニコ、ニコニコ、超穏やかで和やかで柔らかな先生である。作曲科の学生に対してどうだったかは知らないが。そんなI野先生に我々器楽科の学生は1年生の時に「管弦楽概論」2年生の時には「和声中級」を習った。たかだかハタチ前後の若造相手に、どうしてここまで腰が低いのか?逆に自分達の方もタジタジとなっていた。
でもこの「管弦楽概論」の講義が、オケ大好き自分にとっては、もう実に面白くて、毎週毎週この時間が楽しみだった。この講義で得た事は今でも何かと役立っている。
さて夏休みに入った。単位取得の為の課題が出された。それは「ストラヴィンスキーの『春の祭典』の最後部『生け贄の踊り』をピアノ用に編曲しなさい」というものであった。
オケスコアはこんな感じ
普通ならホトケのくせになんて課題を出すんだ⁈と思われるだろう。だがこれは前期の講義のまとめとしては、なる程適切な課題であった。それに実際は(もう時効だと思うので言ってしまうが)できなくてもI先生の場合、単位が貰えない訳ではなく、できれば高成績が得られる、との噂だった。
だが成績云々に関わらず、元々この曲が大好きだった自分にはとてもワクワクする作業であった。しっかり編曲しついでに辿々しくも弾けるようになった。I先生の前でそれを弾くなんて場面はなかったが、それでも管弦楽概論は5段階中の最高評価が貰えた(別にこれは自慢でも何でもなく、殆ど皆が貰っていた)。
2年生の和声中級の試験でも、試験中に「ほらここに連続五度ができてるでしょ?だからこの音はこっちにした方がいいんじゃないですか?」なんて小声で教えながら見廻っていた。
I先生の講義はそんな訳で絶対単位が獲れる、との噂だったが、それよりも自分にとっては単位よりも実にいろいろの知識を獲る事ができた。
今回の定期演奏会シリーズでも『生け贄の踊り』というオドロオドロしい曲名とは裏腹に、このニコニコI先生を思い出していた。初日のリハでは、いまひとつその躍動感に欠けていて不満だったが、本番にはいい感じに仕上がっていたと思う。つくづくI先生には感謝している。