賑やかな山々
この時期の避暑地は合宿オンパレードである。特に7月下旬から8月上旬にかけては、吹奏楽コンクールの為の強化合宿が集中し、山肌に課題曲自由曲がこだまする。
だが考えてみると、そういった避暑地は何も吹部だけの避暑地という訳ではない。ただただ静かで涼しい大自然を満喫すべく、都会の喧騒から逃れてくる人も沢山居るわけで…。そんな事を再認識させられる一件があった。
恒例の吹部夏合宿を指導すべく、電車&バスを乗り継いで苗場山付近のとある宿の真ん前にやって来た。合宿自体は既に3日目、時間的には相変わらず気合いの入ったサウンドがバーンと聞こえてくるかと思いきや・・・何かシーンとしている。ちょっと様子が変だ。
間もなく、馴染みのお手伝いOGとかが現れる「ちょっとハプニングがありまして…」どうやら自分が到着する2時間位前に、隣りのリゾートマンションの住人がもの凄い剣幕で『うるさい』と怒鳴り込んで来たらしい。
それで子供達は急遽音出しを止め、筋トレやらイメトレやらしている間、クレーム主、宿のオーナー、そして顧問の先生がいろいろ話し合い、交渉している。皆テンション急降下、って時に自分は到着しちゃった訳だ。
間もなく何とか話が纏まったようだ。音は出せる事になったが、夜は当初の予定より30分早く終了、窓も締め切る事になった。幾ら避暑地といえ、苗場の日中は暑い。時折豪雨なんかに見舞われるともうムシムシする。こんな状況では指導する方もされる方も集中力が続かない。途中何度も休憩して空気の入れ替えをする等、余儀なくされた。
この度はまあ、双方にとって災難だった。だがこの宿泊施設は元々音楽合宿ができるよう、しっかりとしたホールも兼ね備えている。他の吹部だって、以前からよくここで合宿するそうだ。て事は、たまたまウチとこの住人が同じ期間を過ごしてしまった訳か。運が悪いとしか言い様がない。
そう言えば、10年位昔にも別のバンドで同じような事があった。確か山奥の廃校を改装した施設で、体育館で8時頃に全体合奏をしていたら、付近の住人数人が「何時だと思ってるんだ⁉︎」と怒鳴り込んで来た。付近とはいっても、この周り半径100m位は民家は無い筈だが。8時はこの辺りにとってはもう就寝時間なのだろう。その後どうなったかはあまり憶えていない。
こういったケースはどの位あるのだろうか?夏期の山々はある意味、こう言った楽音でとても賑やかになるだけに、音楽合宿ができる宿泊施設のオーナーや責任者は、やはり前以て隣近所の住人や施設などにその事をアナウンスし、コミュニケーションをとっておくべきだろう。広いスペースがありますヨ、ピアノもありますヨ、なんて事だけで客を寄せても、そこで宿全体が楽音まみれになるという事がどういう事か、宿のオーナーがちゃんと解っていないと、こういうトラブルは往々にして有り得る。純粋に山の中で音楽を練習すべく、お金を払って来ている利用者がこのようにとばっちりを被ってしまうのだ。
そもそもホールの有無なんかよりも、音楽合宿では宿泊室でも楽音は出すかも知れないし、その辺の防音、いや遮音対策は都会のそれと何ら変わりはないのだ。音が出せる時間帯や場所を明記して、それを宿泊客に徹底すると同時に、隣近所に対してはそれ相応の気遣いをする…それが宿のオーナーの成すべきことではないだろうか。
この一件の後、再びトラブルになることはなく、予定通りの日程をこなして当吹奏楽部は山を下りてきた。自分の推測だが、来年以降この施設を合宿所として使うことはないだろう。