オーケストラ,  藝フィルレポート

筋肉ピアノに見えた将来の展望

リオデジャネイロ五輪が開幕し、連日熱戦が繰り広げられている。
そしてG大では4年後の東京オリンピックに向け、「Summer Arts Japan」というコンサートがあった。前半は五輪に因んでるのかどうかよく解らない曲が4曲。ソリストもどういう経緯で招ばれたのか解らないけど、でも上手かった。後半は何故か児童合唱から始まり、多分あまり有名ではない「オリンピック賛歌」(確かバルセロナ大会でドミンゴが歌っていたか)で〆というイヴェント。ツッコミどころが満載であった。
さてところで、後半2曲目で演奏された「音舞の調べ」という邦人作品のセッティング。
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小編成のオケに邦楽の笛と鼓。そしてオケの前にマットと平均台が設置されている。30年近い自分のオケ人生でも初めて見る光景だが、幸い(?)Fluteは無いので、客席からじっくり観察できた。
曲中、4人の体操選手が登場。彼等の演技にオーケストラが伴奏を付けるかというとそうではなく、その身体に付けたセンサーが筋肉の収縮に反応して、その信号(多分MIDIデータに変換)をBluetoothで自動ピアノに送って演奏させるという試み。これはなかなか面白かった。
尤も、難点もあったようだ。先ずBluetoothは電波がWi-Fiに比べて弱く、遅い。ピアノと体操選手との距離は最長10m以上も離れる。そうなるとやはりピアノも反応し辛かったようだ。それにピアノソロならともかく、クライマックス付近でオケや邦楽もフォルテになるとあまり聞こえない。そして何といっても選手の動きとピアノの音列が必ずしもリンクしているかというと、あまりそんな感じに聞こえない。どこに原因があるのか?寧ろ選手の動きに合わせてピアニストが即興で何か指を動かした方が、と言ったら元も子もないか…。
だが自分は、別の意味でこの試みに意義を感じた。
筋肉の動きをもう少し細かいデータに分析できたら、いや筋肉ではなく脳からの微弱な信号をMIDIに変換できるとしたら、つまり指でなくても自動ピアノが操れるという事だ。ラヴェルは右手を失った友人の為に左手だけのPf協奏曲を書いた。あれはあれで素晴らしい名曲だが、既にそれから86年が経ち、このように技術が発達した。そして更にそう遠くない将来、何らかの理由で指や手の機能を失った人でもこのシステムを使えば、普通に両手で弾くようにピアノが奏でられる時代がやってくるかも知れない。


このコンサートの様子は翌日朝のNHKニュースで放送された。コンチェルトとこの“筋肉ピアノ”のほんの一瞬のみ放映されていた。「オリンピック賛歌」は実は札幌と長野を結んだ中継で同時演奏という注目すべき事業だったが、ここでは全く話題にされなかった。本番のあの段取りの悪さを思い起こせば、まあ無理も無いだろう。

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