「助成金」という精神的苦痛
ARTS for the future! 2
通称AFF2!(エーエフエフツー)、これにはこれまで約10ヶ月間、心底苦労させられた。所謂文化庁が出してくれるプロの芸術活動に対する助成金である。助成の理由は勿論コロナだが、この助成金交付は2年前にもあり、その時は自分から申請するような事はなかった。その2年前の方は今回のそれよりも規模は小さく「最高150万円まで」とされていた。自分は間接的にその恩恵に度々授かっていた。
今回のAFF2!は桁違いだ。ランクにもよるが600万円〜2,500万円という大規模なもので、対象も舞台芸術やら映画制作やら、凄い事になっている。ただ、対象は「法人」だけではなく「任意団体」もOKなので、それならばと12月のクリスマスコンサートの為に「YUMO-musicfactory」でダメ元で申請してみた。ランクも一番下で、申請額も100万円もいかない。
しかし!その申請の中身は案の定というべきか、地獄並みだ。なので実は一回諦めた。それは4月位だったか。
ところがある日、知人のコンサートのチラシにショッキングなロゴを見つける。まさしくAFF2!助成のロゴだ。こんな3人しかいない小さな仲間で取れるのなら…と、俄然自分の尻に再点火された次第である。
システムのダウンロードと「事業開始届出書」
先ずはAFF2!の申請用ページにアクセスし、ブックマークをかけておく。Ymfを登録したものの、とにかく解らない事だらけだが、マニュアルもちゃんと出ているので頑張って読み解いていく。
初期の申請段階で「収益事業開始届出書の写しを添付」とある。何じゃこれ?と思って、もう面倒臭いから直接近所の税務署に行って訊いてみる。その結果、国税庁のHPから落とした書類に適当に書いて届出をし、それを添付するだけでOKという事になった。なんだこれだけか…と思ったが、後にこれが大変な事態となる。
エクセルのインストールと口座開設
ところで、ダウンロードしたテンプレートに必要事項を入力しても、何だかしっくりしない。先ずはとにかくこれで「申請ボタン」を押してみよう。
案の定すぐに差し戻された。やり直さなければならない事が山ほどある。
先ずは基本のテンプレートにMacのNumbersを使っていた事が、そもそもの大間違いだった。AFF2側は「Excelオンリー」としているが、自分はその使い方をちゃんと理解していないし、サブスク料もかかる。「Numbersも使えるようにしてくれ」と一応頼んでおいたが、土台無理な話であろう。という訳でExcelをインストールし直して、「無料お試し期間」中に再入力。つくづくExcelの画面はゴチャゴチャしていて大嫌いである。
もうひとつの厄介事は、助成金振り込みの為の、Ymf名義の口座開設である。個人名義ではダメだそうだ。そこで先ずは近所にある「三井住友銀行」へ。「口座を新しく開設したい」なんていうと行員はニコニコ顔で擦り寄って来たが、「団体の口座です」と告げたら「それなら大宮の支店で、予約を取って手続きしてください。ここでは取り扱っておりません」と、ものの見事に手のひらを返したような態度。
仕方なくすぐ近くの別の銀行へ。ここもダメ元で入って聞いてみたら、意外とすんなり口座開設してくれた。横断歩道を挟んだ斜向かいなのに、サービス体制はこうも違うものなのか。但しとても時間がかかった。
そして漸く…申請通過
Excel・口座・添付ファイル…とにかく何度も差し戻されては修正、修正しては差し戻されの連続。次第に嫌気がさしてきた8月のある日、遂にAFF2!より「助成金交付決定」のメールが!
その瞬間は飛ぶように喜んだ。だがしかし、その後がまた大変なのだという事が次第に判明し、コンサート自体のプレッシャーと重なって日一日と気が重くなる。交付決定団体を対象としたセミナーがオンラインで開かれ、その複雑な内容によるととにかく一筋縄ではいかないのだ。
そうこうしているうちに夏が過ぎ、秋が過ぎ、冬が来てコンサート当日を迎えた。出演者・スタッフに支払うギャランティについても、全て「請求書」「領収書」等しっかり用意して記入・捺印してもらう。会場の様子もしっかり写真に納めておく、これも全て助成金を頂く為なのだ。この類の雑用は、所謂「社員」の仕事だが、Ymfは実質2人しかいないので、まさに演奏しながらこなしていくという激務を余儀なくされる。
「実績報告」という大仕事
無事にコンサートを終えて、ホッとするのも束の間、今度はこれまでの経過を全て「実績報告」しなければならない。AFF2の専用ページよりシステム入力したり、全ての領収書をコピー・添付したり、写真も何枚か添える等、「証拠書類」「補足資料」は実に28項目もある。未だ正月の雰囲気も冷めやらぬ1月上旬、これらを全て提出し、何だかここで初めて新年を迎えた様な気分。。。それだけ大変な作業が続いた訳だ。
ところが!ここで問題発生。詳細は省くが、チラシの主催者の記載に問題があるとの事。ここでまた過去のコンサートを引っ張り出して資料を添えたり、理由書を書いたり等、正直言って「もういい加減にしてくれ」という気分だった。こっちは何も疾しいことはしていないのにこの頗る厳しい態度、もしかしたら自分は役人ではなくAI(人工知能)を相手にしていたのかも知れない。
そして2月。コンサートから2ヶ月も経って、ようやっと助成金が振り込まれた。
申請が通った時は嬉しかったが、今は遂に終わったという解放感。少なくとも「嬉しい」という感情は一つもない。この全ての事務作業にかけた時間と手間を考えれば、寧ろ確実に損した気分である。
「法人税」という追い討ち
先の大変な事態とは…
或る日、「法人税の申告書」なる書類がドッサリ届いた。「事業開始届出書」のせいで、今度は法人税を支払わねばならくなった。法人ではないのに。今春の税金については、かなりうちの“財務大臣”に苦労をかける事になってしまった。今後一定額の法人税を納めなくてはならなくなった。ホントにもう…文化庁から支払って欲しいものである。
こうして鑑みると「AFF2!」はコロナで困窮した芸術に携わる人達に対して、本当に救いの手を差し伸べようとしたのか、甚だ疑問に思うのである。嘗て2020年の「持続化給付金」について、不正受給が次々と明るみに出た経験から、国も相当神経質になっているのも理解できる。勿論給付を受けられた事にも感謝しているが、最後の最後はAFF2!に対してネガティヴな感情しか残っていない。
…まあ、得てして「助成」「後援」「協賛」等の“一言”をチラシに載せるためには、それなりに苦労が伴うものである。今回は本当に何度も辟易したものだったが、上手くやっていけばこういうのも慣れてくるかも知れない。
とんでもない社会勉強であった。
…そういえばAFF2!のシステム入力欄にこんなのがあった。
「コロナ禍でのこのコンサートに対する積極的な取り組み、またその時期」
これに対して、次のような文を打ち込んだ記憶がある。
「コンサートの動画を編集し配信する。12月25日を目処に出来るだけ早く配信するよう努力する」
未だに1曲分も編集できていない。そんな簡単にできる訳ないだろ!