ソーシャル・ディスタンスとオーケストラ

日曜日 , 31, 5月 2020 ソーシャル・ディスタンスとオーケストラ はコメントを受け付けていません

COVID-19によって前世界が暗黒の霧に包まれている。日本は当初は何とかゴールデンウィークまで我慢すれば、という楽観的な見解だった。
ところが実際は周知の通り。感染拡大を防止する策のとして「三蜜を避ける」「他人同士が一定の距離を保つ」という世の中になった。

これによって、世の中の経済も大打撃を受けることとなったが、飲食店などは「感染防止対策をしっかりとした上で」再営業できるようになったからまだ良い。しかしお客さんを一堂に集めて、という業種はなかなかそれが難しい。つまり、音楽や演劇等のエンターテインメント系がそれである。


もう少し掘り下げて考えてみる。「他人との距離を1〜2m開ける」というソーシャル・ディスタンスは、考えようによってはお客さん側はできなくもない。ホールなどでは少なくとも2席、そして1列は空ければ鑑賞できると思う。尤も満席に比べてチケット収入は3分の1程になってしまうだろうが。
では出演する方はどうか?コンサートの場合、ソロリサイタルについてはまず問題ない。少人数のアンサンブルは?これが微妙だ。奏者がお互いそんなに間隔を空けちゃうと、かなり合わせ辛いと思う。それでも背に腹は替えられぬとやったとしても、客席にどう聞こえるのか?多分かなり音が散らばって、相当な違和感を与えてしまうだろう。それに、このリサイタルにしてもアンサンブルにしても「ホール」が前提であり、サロンなどは三密だからもうアウト。昔は自分も港区の地下のスタジオでよく木管五重奏のコンサートなどやっていたが、今あんな事をしたら「クラスター」を起こしかねない。

さてそんな訳で、一番問題なのがオーケストラと合唱だ。今後どのような感染防止対策をすれば良いのだろうか?
ポイントは奏者の間で唾液や汗の飛沫がかからないという事だが、そもそもそんなに届くものだろうか?弦と打楽器奏者は管楽器奏者よりも演奏時の体の動きが大きいので、強いて言えば唾液よりも汗、逆に管楽器奏者は汗よりも唾液に気をつけるべきかも知れないが、基本的に管楽器奏者の口は塞がっているので、唾液はまず飛ばない。筒先から飛ぶなんてのは、素人による大いなる誤解だ。唯一塞がっていないのはフルートだが、余程変な吹き方をしない限り、唾液が譜面台を通り越して飛んでいく事はない筈だ。
とにかく器楽は演奏中に声は出さないものである。となるともう一つのポイントは汗だ。本番中はライトを浴びると冬場でも暑く、場合によっては汗だくになる。オケ奏者が今後気をつけるべきはこちらの方で、空調も含めた何がしかの制汗対策や、演奏中の過度な動きにも気を配った方が良い。
日本のオケはしかしながら、得てして各演奏者の動きは小さいと思う。というのは(自分もそうだが)指揮者以外の人にあまり大きく動かれると、視覚的に邪魔で演奏し辛いのである。
某ヨーロッパのオケなどは各人がもの凄い動きで、身体全体で音楽を表現しているのが印象的だが、善し悪しはともかく何もあんなに動かさなくても音楽は表現できるというものである。

要するに自分が思うに、オーケストラは各奏者が感染防止対策に気を配りさえすれば、演奏可能ではないかという事である。お客さんだってロックのコンサートみたいに立ったり大声を出したりしない訳だし(強いて言えばあの『ブラボー!』だけ控えていただければ)。
だがその場合、一番対策しなければならないのが指揮者だ。リハーサル中はもとより、本番でも汗や唾がジャンジャン飛びまくる。マスクをし、アクリル板で囲っておかないと弦楽器の前方のプルトには被害が及ぶであろう。

とはいえ、こうもあちこち営業自粛・イヴェント自粛とうたわれると、やはりオケは元よりどのコンサートもできないのが現状である。プロオケだってコンサートしてナンボという以上、実質収入はゼロ。それが何ヶ月も続くと、経営不可能に陥ってしまう…。
遂に各プロオケが寄付を募り始めた。募っているのは放送局や新聞社や自治体などのバックアップのない、自主運営のオケだ。ここで極めて素朴な疑問だが、例えば◯◯フィルが「潰れそうです。お金を恵んで下さい」ときた場合「◯◯フィルが無くなったら本当にヤバい。困る」として寄付する人はどれ位いるのだろうか?それでなくても日本には、特に東京には凄い数のプロオケが集まっているので、1つ2つオケが消えても、蚊に刺された程度にしか思っていない人も多いかも知れない。そもそもこの不景気、人に寄付するより自分の食い扶持を何とかしなくては、という人がおそらく大半を占めているだろうし。
実際のところ、どれ位寄付が集まっているのか?詳しいデータは知らないので何ともいえないが、多分何処も“焼け石に水”で経営陣は頭を抱え、楽員は不安を抱えながら家でさらっている…という構図が眼に浮かぶ。

今はまだ全く収束の兆しの見えないこのCOVID-19であるが、近い将来は必ず元の生活が戻ると信じている。マスクもソーシャル・ディスタンスも不要という元の生活が。ただ、それまでの間は、プロオケやミュージシャンは音楽を別の方法で売るという“生き方”も必要なのかも知れない。例えばネットやメディアによる配信等。無論“生音”に勝るものはないが、今はそんなことは言っていられないだろう。既に寄付だけに頼らず、生き残る為の何がしかの手を何処の団体も打っているとは思うが。

しかしながら、やはり音楽仲間はお互い助け合いたい。
自分が嘗てお世話になったプロオーケストラの「寄付」のページを貼っておこう。