全員が息切れ
先日3月24&25日に開催された「現代舞踊協会」の公演は、2日共大入り満員の大盛況であった。演目は2つあり、前半がストラヴィンスキーの「春の祭典」をBGMとした「体」(たい)というタイトルの創作舞踊(音楽はテープ演奏)、そして後半はGフィルの伴奏による邦人作品「プロメテの火」作曲はあの「ゴジラ」の伊福部昭氏だ。
この「プロメテ〜」は全部で50分程の舞踊物語で、68年ぶりの再演だそうだが、譜面は印刷譜で手書きの書き込みもなされていたので、音楽自体は多分近年何処かで演奏されていたのだろう。4つの場面から成り、その転換部は間奏曲で繋がれるから、音楽は殆ど切れ目無しに続く。結構ハードワークな曲。
第1〜2景の疲れもそろそろ出てくる頃、パート譜も後半に差し掛かって間もなく、8分そして16分音符の音列がまるまる4ページ休みなく続くという、地獄絵図のような譜面が現れる。第3景「火の歓喜」の始まりだ。
最初はフルートとオーボエのユニゾン、次第に楽器が増えていき、最後は全体がff(フォルティッシモ)のフェルマータとなる(そもそもこの最後の音はフェルマータではなかったのだが、演出の先生が『もっと迫力を!』ってな理由で延ばすことになってしまった)。この踊りの始まりからここまで実に5分半!管楽器群が皆ゼーゼー言っている。流石にジムで走ったり泳いだりしている自分でも、この時ばかりは頭がクラクラした。弦楽器はその間何をしているかというと、ずっと同じ音符を「ザンッ、ザンッ〜」と刻みっぱなし。彼ら曰く、これはこれで大層キツイそうで、皆が「腕が痛い肩が痛い」とか言っている。
とまあこれはピットの中でのちょっとした悲鳴だが、舞台上はもっと凄かった!40人余のダンサーによる激しいダンスがこの5分間延々と続いていて、最後のフェルマータが切れた後でも緞帳が下がるまで、いや下りた後もなお踊り続けなければならないようで、ダンサー達の激しい息切れが緞帳越しにピットまで聞こえてくる。それこそ出演者全員が激しい疲労に見舞われる瞬間であった。そんなに疲れていないのは寧ろ指揮者独りだけであろう。
だが一方で、よくまあゼロからこんな音符群が頭に湧き出てくるものだと感銘を受けていた。ストラヴィンスキーも凄いが、伊福部氏のこの発想力にも(演奏しながら)圧倒されていた。
本来なら前半の「春祭」でも生演奏であるべきだろうが、いかんせんこの「彩の国さいたま芸術劇場」のピットにはこの曲用の5管編成のオケは狭過ぎて入らない。仮に入ったとしても予算的な事情もあるだろうし。
「体」(春の祭典)
「火の歓喜」〜「プロメテの火」
とにかくこの2つの演目、実に素晴らしかった。現代舞踊の面白さを再認識する良い体験であったと思う。