オーケストラ,  藝フィルレポート

ベルシャザールの饗宴

という曲がある。
曲名からしてあまり良い王様ではなさそうな事が想像できるが、その通りその暴君ぶりが表されたオーケストラ曲である。あまり演奏される機会のない、割と珍しい曲なのだが、自分はこれまでに3回経験している。そのうち2回はウォルトン作曲のオラトリオ「ベルシャザールの饗宴」1回はシベリウス作曲の組曲「ベルシャザール王の饗宴」。つまり異なる作曲家達が同じ題材を採り上げているという訳だ。
だが同じ題名でもその規模や構成は 全く違う。
イギリスの作曲家、ウィリアム・ウォルトンによる前者は、3管編成のオケに混声合唱が2組とバリトンのソロ、更には舞台外にて2隊の金管バンドがステレオ配置されるという、もの凄く大規模な編成。
1128img_0815リハーサル風景(休憩時間)
古代バビロニアのベルシャザール王の下に捉えられた捕虜達の怒りや悲しみから始まり、王家の饗宴(つまりドンチャン騒ぎ)の描写を経て、最後は王の死に伴う民衆の喜び、という具合に構成されたオラトリオ。なので曲はほぼ最初から最後までド派手だ。だが途中、とても美しいアカペラがあったりもする。
一方、シベリウスの後者は2管編成のオケのみによる4曲から構成された組曲。全体的に静かで且つ地味な印象を伴うが、3曲目にとても美しいフルートソロが出てくる。
この2曲を比べるって事自体ナンセンスかも知れないが、当然聴衆ウケするのはウォルトンの方であろう。
だが、約20年前に1回、そして昨日2回目とこのウォルトン版を吹いてみると、顧みれば去年吹いたシベリウス版の方がつくづく深みがあって、演奏後の後味が良いと思った。
ウォルトンはつい数十年前まで生きていた現代作曲家であって、映画音楽なんかも多数作っている。そのせいか『007』や『インディジョーンズ』みたいな所も出てきたり、吹奏楽のようなサウンドもしたりで面白いし、オーケストレーションや和声リズムの構成も、凄いとしか言いようのない程緻密にできている。
だがそれだけに、シベリウスを吹いた後では何故か妙に薄っぺらさを感じてしまうのである。思うに、元々歌詞が付いているオラトリオだから、それだけで内容は9割方聴き手に伝わるのに、いろんなものを盛り過ぎちゃって逆に理解し難くなった様子だ。例えるなら天丼の上に更にイカ刺しや茄子漬けが乗っている感じ。
昨日の本番では前プロがあって、それがよりによってデュリュフレの「レクィエム」だった。まさに天国のようなサウンドの後のベルシャザールである。そりゃコンサートの流れとしてはこの順番であろうが、この2曲を並べた事により、自分の耳にウォルトンサウンドは次第に苦痛を感じるようになってきた(ましてやピッコロだったし)。
このタイトルの管弦楽曲は他にも誰か作っているのだろうか?生涯で複数回この曲に接するのは貴重な機会とはいえ、少なくともウォルトン作については今はもう沢山;;;という気持ちだ。
ベートーヴェンの「総ての偉大なるものは単純である」という名言が改めて胸に響く。

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