最も可笑しくて不快な曲
松本サリン事件、地下鉄サリン事件等、嘗て世の中を震撼させたカルト教団の教祖や幹部が、この度死刑執行されたというニュースが流れて間もなくの頃、いつもの子供達のバンドの夏合宿指導があったので、自分は例年の如く岐阜県の山奥へ。
このバンドは小・中学生で成り立っているが、その往きのバスに自分が同乗している中、はしゃぐ男子達の会話の中でちょっと気になるフレーズが引っ掛かった。それは一節の歌だった。
「♪ショーコー、ショーコー、ショコショコショーコー、ア、サ、ハ、ラ、ショーコー」
男子達はこれを面白可笑しく、替え歌にまでして何度も歌っていた。自分は黙って聞いていた。
この曲は、当時この教団の音楽担当の幹部が作曲したそうだ。この元幹部は東京音楽大学のトランペット科出身で、名前も聞いて知っている。実に面白く歌い易く、そして耳に残るフレーズだ。
あれから23年以上経った現在、どこでどう知ったのか、当時は影も形もなかった中学生達がこの歌を愉快に歌っている。だが、この歌の元となった教祖と教団が世の中にどんな大罪を犯し、どんな迷惑をかけたかは、仮に知っているとしてもリアルタイムで聞いてはいない。リアルタイムで経験している大人達は、子供の戯れとはいえ、あれを聞くとモヤモヤした複雑な気分になる。他のトレーナー達も同意見だった。無理もない。
そのモヤモヤは次第に蓄積し、同時に男子達の「♪ショーコー〜〜」は次第にエスカレートしてくる。遂に合宿3日目、合宿所近くのお馴染みのプラネタリウムにて上演前に彼等がまた歌っている時、近くに座っていた自分は思わず「やめろお前ら!」と怒鳴りつけた。
それ以降、合宿中にこの歌を耳にすることはなかった。彼等も馬鹿ではないから、多分いろいろ察し、理解してくれたのだと思うが、つくづく時代の流れとはこのように恐ろしい面もあるのだな〜と思い知らされた。
やっぱり詳細を知らないからこうして歌っているのだ。しかも楽しいメロディーとくる。あの恐ろしい数々の事件のみならず、戦争だってそうだ。人間は次第に忘れてくるし、そして知らない世代へと移行していく。こういう黒歴史は、こうやって繰り返されていくのだろう。でも絶対に繰り返して欲しくない。そんな思いをこの男子達は逆に再認識させてくれた。