弾き振りの良し悪し
コンチェルトなどでソリストが指揮者も兼ねるケースがある。
実は自分もその昔、何度かその“吹き振り”をやった事がある。当時はまだ若く、指揮法なんて大学の集中講義でしか習った事がなかったし、結構オケにはご迷惑をおかけした記憶がある。
それでも流石はプロオケ、自分の未熟な部分をテンポからバランスまで、上手く調整してカバーしていただいた。因みにその時の曲は、モーツァルトのフルートとハープの為の協奏曲だったり、ジョリヴェのフルート協奏曲だったり。
とまあ、ソリストの立場ではそんなところだが、逆にバックのオケで吹いた経験は・・・
もしかしたら先週の藝フィルの定期演奏会でのソロ・ヴァイロリニストによる弾き振りの本番は、オケ人生で初めてかも知れない(最近は自分の記憶力に自信が無いのだが)。
例えばソリストとのコミュニケーションが全く取れていない指揮者だったりすると、寧ろ居ない方が演奏し易いのだが、かといって今回みたいに全く無しだと、ちょっと困る場面もあった。
というのも曲目が殆ど馴染みのない所謂マイナーナンバーで、2曲中1曲はどうやらソリストが自分の弾き振り用に編曲したものらしい。ストラヴィンスキーの「妖精の接吻」というバレエ音楽だが、テンポがめまぐるしく変わるので合わせるのにひと苦労。頼みのコンマスはよりによって新任で、しかも初仕事がこれ。申し訳ないがそんなにアテにできず。もう1曲はチャイコフスキーの「瞑想曲」。ヴァイオリン協奏曲の2楽章にしようとしてやめた曲だそうだが、こちらも結局本番ではズレたりした箇所があった。よってこの2曲共、全体的に漂うこの微妙なアインザッツのズレが、どうも自分としては歯痒い印象となってしまった。
今回はソリストご本人が望んで弾き振りをされたことと察するが、思うにそういう時はやはりメジャーなコンチェルトか、若しくは相当テンポのしっかりした曲がいいだろう。でないと、限られたリハの中で消化していくのはかなり難しい事だ。
後半はこのお方、楽器を持たずにちゃんと指揮棒だけ持ってチャイコフスキーの「悲愴」を振っていた。もし彼が今度はコンマスの席に座って指揮者無しでこの曲をやったとしたら…
メジャーな曲なので案外上手くいったかも知れない。