モンペアがあらわれた!
とあるフルート教室。
1人の男の子が1ヶ月の体験レッスンにやって来た。小学校高学年。母親も付いて来て一緒にレッスン室へ。
全くの初心者で、家には母親が吹いていたとかいうフルートが1本あるそうだ。先生はこの親子をひと目見て何か嫌な予感がした。
案の定その子供は、先生が何を訊いても反応無し。俯いたまま、やる気があるのかどうか判らない。代わりに後ろから親がちょいちょい答えてる。
まあそれでも、頭部管だけで音を出してみることから始めてみる。
実はこの頭部管との“ファースト・コンタクト”で音が「プーッ」と鳴るか鳴らないか、ここで初心者の場合、この後の上達ペースに2〜3ヶ月位の差が出る。要するに鳴らない人は自在に鳴らせるようになるまで2ヶ月、その後もちょくちょく音が出なくなってまた1ヶ月遅れる、という具合である。
でもまあ、その程度の月日なんてすぐに経ってしまうから、それでも1年位習っていればチィチィパッパ的な曲などは吹けるようになるものだ。
だが、この喋らない子の場合は勝手が違っていた。それまでになく“強力”な状態で、初回のレッスンでは結局1発も音が出ない、2回目でようやく掠れた音が出てきたが、上唇がワシのクチバシのように出てしまっている。これを直してみると案の定元の木阿弥。3回目ではやる事もなくなってきてタンギングを教えてみる。だが楽器なしでさえ口で「Tu(トゥー)」と言えない。4回目はもう何をやったか、先生も忘れた。
…何故フルートなんかやりたいと思ったのだろう? 実は必ずしも「好きこそものの上手なれ」という諺が当てはまらない例は他にも幾つかあった。フルートが好きなら、最初は辛くともやはり音が出る為にはそれなりの努力が必要である。家で練習したか訊いてみても例によって本人は黙ったまま。代わりに後ろから「あまりやってませんでした」と母親。
本当にフルートが好きなのか?それどころか音楽や楽器さえ全く興味がなそうだ。とはいえ、無理矢理ここに引っ張って来られた訳でもなかろう。とにかく、これでは長続きはしないだろうと判断した先生は、体験レッスンの終わりに母親に、フルートのみならず他の管楽器を続けるのはなかなか難しいであろう事を伝えた。
理由は今までお母さんがこの状況をご覧になった通りですという事の他に、この背丈でこの横幅では(ちょっと太っていた)楽器を横に構えるのは困難だという事、そして何より意思表示ができないとレッスンの進行が困難であるという事。母親も「やはりそうでしたか」と言わんばかりに納得して、このお互い過酷なレッスンシリーズは終了した。
…ところが翌日、この母親が凄い剣幕で教室にクレームをつけてきた!「息子が傷ついた、本人の前で言う事じゃないだろう云々」挙げ句の果てには「名誉毀損・人権侵害で訴える」とも。訴訟の話が出た時点で、この親は典型的なモンスター・ペアレントである事が判明した。教室は親と先生の中を取り持ってかなり苦労したそうだ。その後どうなったかは知らない。
まあ純粋に子供心を傷つけたというのなら、それはそれで先生も反省すべきであろう。
他人の子育てに口を挟む筋合いはないが、でも仮に自分が母親だとしたら「んな事いつまでもくよくよしないで、次の挑戦でも考えたらどうだ男なら」と、この餓鬼を一蹴してやりたいところだ。
よっぽど例えば先生が暴力的だったとか、やる気なかったとかいうのだったら、そりゃ自分も教室にクレームはつけるだろうが、終始親もレッスンを見ていてその上で納得して帰って、その後ちょっと子供がしょげたからといってこの有り様。この母親、自分が何をやっているのか、何を言っているのか、客観的に認識する能力に欠けているのだろうと察する。過保護もここまでくれば狂気だ。将来何らかのきっかけでこの餓鬼が親に反旗を翻すようになった時の事を想像すると、凄く怖ろしい。
恐らく同じように担任の先生、或いは同級生の親御さんとかも同じような仕打ちをされているだろうと思うと、何とも気の毒でならない。
因みに楽器に向き不向きは関係なく、子供の肥満は有無を言わさず親の責任だと思う。この親子はもうすぐ夕食の時間だというのに、帰り道でハンバーガーを買い食いしていたそうだ。無論夕食ではなく“おやつ”としてであろう。さもありなん、という具合である。