第九物語〜音域とパート譜

第九の季節が早くもやって来た。

自分も先日、久方ぶりにこの交響曲の1st.を吹いたが、このパートの所々には、非常に興味深い音列がある。オケ吹きにとっては「何も今更…」って話なのだが。

例えば第2楽章(ちょっと判り辛いが枠で囲んだ所)。

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途中から極めて不自然にガクン!とオクターブ下がる。で、また上に戻る。

要するに、ベートーヴェンがこの曲を書いた頃のフルートは、最高音が加線4本のHigh-A止まりだった訳で、B♭から上の音は容赦なくオクターブ下げたり、違う音列にしたりする。ただこれだけの事だ。こういった謂わば“置き換え”は、この曲全体で何十箇所もある。

しかし、現代のフルートはもっと上まで出る。加線が6本もつくHigh-Dなんて、今や普通に出せる。

というわけで現在この曲を演奏する際、これらのB♭〜の音はオクターブ上げて、自然な流れのメロディーにして演奏したりしている。

さて、果たしてそれは良い事なのか?

指揮者によっては、これについて指定してくる人もいる。「Cから下は上げて下さい」とか「一切上げないで下さい」とか。そう言われればその通りにする。今回は何も言われなかったが、そういう場合は基本その奏者の判断による。カラヤン&BPOの一番新しい録音では(多分ブラウ氏だと思うが)全部バンバン上げていた。カラヤン氏の意思なのか?とにかくだからもう、フルートが目立つのなんの。

そう、上げたら上げたで、よっぽど気をつけて吹かないと、オケ全体の音色さえ変わってしまう事があるのだ。自分も若い頃にこの1stを吹いた時は、よく上げて吹いていたのだが…。

もう30年近く、毎冬毎冬この第九に接しているうちに、ベートーヴェン氏のこの曲に懸ける想いというかコンセプトというか、そんなものをちょっと感じるようになって来た。いや違うな、この曲自体にベートーヴェンさんそのものが存在するような、そんな感覚かな。

その上で、作曲者とフルート奏者の間でこんな会話が成り立つような気がする。
「ベートーヴェンさん、ここん所、オクターブ上げていいですか?」
「ダメです」
「何で?今のフルートはこの辺の音、出ますよ」
「ダメです。音域の問題ではありません。上げると私のイメージしたサウンドじゃなくなります」

と、曲自体が言っているような……………………….

という訳で、今回は全く譜面通り、1音も変えないで吹いた。返って吹きづらくなる箇所もあったし、明らかに周りのメロディーと違うだろう、という音列もあったが、敢えて全部そうした。

結果、第九本来のサウンドに本当に近づいた気がした。割と満足であった。


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