第九物語〜数々の真剣勝負

第九、ベートーヴェンの交響曲第9番「合唱」の第4楽章。

有名な「歓喜の歌」が独唱、合唱共にひとしきり盛り上がって一段落したところでいよいよ軍楽隊の登場だ。

20141221

8分の6拍子のマーチが始まる。それまで約1時間、ずーっと黙っていたピッコロ、コントラファゴット、そしてトライアングル、シンバル、大太鼓の打楽器陣がここでようやく加わる。

このシーンは、その軍楽隊がまだ遠くにいて、徐々に近づいてくるというシテュエーションである。なので、出だしはpp(ピアニッシモ)。

自宅でppを出す分には全くへっちゃらなのだが、どういう訳か第九のこの直前に合唱が「vor Gott」とか叫んでた直後の静寂の中でのppは、不思議な魔力が働き、普段のように音が出ない。当然ピッチもオーボエやクラリネット達と合わせていかねばならないし…

という訳で、まだ自分が新米ピッコロ奏者だった頃、このマーチでこんなに緊張するのは自分だけだと思っていた。

が、どうやらそれはピッコロだけではなく、他の奏者、つまりファゴット属や打楽器群にとっても、もの凄くシビアな場面だということが解ってきた。むしろピッコロは、まだ楽な方かも知れない。

ピッコロが入る小節前、つまりこのマーチの冒頭は、ファゴット達による最低音B♭の四分音符、勿論pp。リード楽器の最低音のppはフルートの最高音のppに匹敵する難しさだそうだ。ヘタすると音が出なかったり、逆に爆発音になっちゃうらしい。

同時に大太鼓が「ボン」とやはりpp。これも上手く叩かないと、弱いが故に「モワッ」と鳴ってしまう。弱くても、客席にはクリアに音が届かなければならない。

この後ピッコロ、オーボエによるメロディーと同時に、シンバルとトライアングルが入る。これらの鳴らし方も、もうもの凄く奥が深い。ppで同じ音色を続けるのは、かなりの熟練技なのだ。

このように各奏者の極限の緊張状態の中、マーチのフレーズがひと通り済んだところで、テノールの「Froh!」という歌が始まる。この辺から楽譜にはpoco crescendo(少しずつ大きく)と書かれている。

だが、ようやく普通の音量に戻していけるかと思いきや、これまでの経験ではcresc.していいのはまだ全然先の話であり、少なくとも男声合唱が後から入って来るまでは、音量のバランス上あまり大きくは演奏できない。これはソリストの声量や立ち位置(オケの前か後ろか)にもよる。

もう軍楽隊がすぐそばまでやって来て、目の前を通り過ぎて行くという最後のクライマックスの部分では、もうffと書いてあるので、勿論ガンガン出しても良いのであろうが、あくまでもベートーヴェンのシリアスな音楽。リズム、音程etc,いろいろ気を配らなければならないことに変わりはない。

とまあ、一見ノリノリのマーチでも、舞台上にて様々な”真剣勝負”が展開されている訳だが、実はこれはマーチだけではない。

他に、第2楽章スケルツォの中間部に於ける1番オーボエの長いソロ、第3楽章アダージョの出だしの2番ファゴット、そして何といっても4番ホルンのソロ。これらは皆、今後の演奏生命に関わるんじゃないかと思える程の、一世一代の大勝負をこなしているのである。その緊張度は、恐らく当事者にしか解らないだろう。

G大フィルは今日がその第九の本番だった。そんな各奏者の奮闘もさることながら、今年で33回目となる台東区と共催のこの「下町で第九」、今回も超満員の大盛況であった。

平和の象徴として、恐らく世界中に愛されているこの第九。つくづくベートーヴェンって凄い。


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