調性判断の悩み

….ひとつ、とても困っていることがある。

楽典の科目の中に「調性判断」というのがある。

所謂調号という物がなく、臨時記号のみの楽譜で「この曲は一体何調なのか?」を解く問題。

悩みというのは….自分はこれが苦手かというと、寧ろその逆、メッチャ得意である。ただ、その解き方についてだが、いうなれば自分は「勘」で判断していて、譜面をボーッと眺めているうちに何となく解ってしまうのである。的中率はほぼ100%(いや、これは自分だけではないと思う。殆ど総てのガクタイに普通に備わっている能力であり、そうでないと仕事にならない)。

それだけに、この調性判断を生徒にどう教えたらいいのか、目下のところ確実な方法がなくて、メッチャ困っているのだ。

先日もある生徒に一所懸命解説したものの、説明している自分でも何を言っているのか解らなくなる始末。詰まるところ「勘で判断せよ」と言いたいが、いやいやそういう訳にはいかない。

調性判断について詳しく説明しているサイトを見つけたが、ダメだった。

そのサイトに例題として挙げられている譜面は、自分はたちどころに何調か判るものの、その解説は何だが難し過ぎてワケ解らない。やはり、楽譜という記号だけを見て、そこから何調か紙面上で解いていくというのは、ナンセンスであろう。先ずその曲を頭の中で鳴らすことがやっぱり大事だ(最低限のソルフェージュ能力が必要である)。

とにかく例題をここにひとつ挙げてみる。

例えば楽譜上に♭が多ければ何となく♭系、♯が多ければ♯系の調だろうと、取り敢えず推測してみるが、中にはこんなのがあったりすると…

20140918a

この楽譜にはシャープもフラットもナチュラルも全部5個ずつあり、それすら判断しがたい。

結論から言えばこの曲はg-mollト短調なのだが、一体この曲をどのように説明すればg-mollと解ってもらえるのか?

つまり、g-mollらしからぬ音がいっぱいあるのだ。言い換えれば、g-mollの音階に含まれない音って事だ。

それは2,6,9,15、そして1,10,13,14辺りはg-mollの構成音ではあるものの、ちょっとクセのある音だ。さあ、これらの数字の音について語ってみよう。


1は本当はEsであるべきだが、旋律的短音階上行型に於ける第6音という扱いで、この音によってここだけちょっと明るめのg-mollとなる。

2は単純に次の音の引っ掛け。前打音的な音であり、下から引っ掛ける場合は通常半音上げる方が自然である。

3と4は構成音で同じく3から4に引っ掛けているが、上から引っ掛ける場合は半音とは限らない。2の音が同一小節内にある以上、ナチュラルを付けるのが当たり前。

5はg-mollの導音。しかし次の音は主音でなく、一旦3度上がってから主音に引っ掛けている。これによって旋律にちょっと色を添えている訳で、普通ならばこの時点で「お、g-moll」かなと“仮定”できる。

この仮定の途端、不可解な6の音が現れる。これがB♭だったら良かったのだが、半音上げる事によってこの小節の後半のハーモニー(4度またはc-moll)の導音の役割を果たしている。

7と8は普通に旋律的短音階の下行型で、7に別にナチュラルを付けなくても良いのだが、前の小節に対する日本的な(笑)気配り。

9は厄介だ。隣がDでないので半音で引っ掛けている訳ではない。これは次のE(10)、その次のGとツルんで3&4拍目の属7和音の為の属7、つまりg-mollのドッペルドミナントA-Cis-E-(G)という和音の構成音のひとつなのである(AをB♭にしてGの減7でも可)。10も8を意識してのナチュラルだが、やはり旋律の流れとしてはEの方が自然で奇麗だ。

従って3&4拍目はg-mollの属7。11は普通の導音。

属7だったから次の小節は普通に主和音。12は普通に第3音。

13も厄介だ。これは旋律的短音階上行型の構成音ではない!ここは下行型だし。これは同じ旋律的短音階でも、構成音FとEs(14)に挟まれた「経過音」なのである。このEによってかなりメロディーとしては滑らかに、または“甘く”、または“ロマンチックに”なる。尤も本来この音は異名同音のF♭で書かれるべきであるが、演奏者の立場としては視覚的に不慣れなので、このようにかかれる事の方が多いかも知れない。

最も厄介なのが15。この3拍目の和音は2度、つまりサブドミナントなのだが、このサブドミナントに於いて第2音をたまに半音下げる事があるのだ。これを「ナポリの6」という(何故ナポリなのか、何故6なのかについては長くなるので割愛)。この15が普通にAならすんなり行けたのにAsだからc-mollとかAs-Durとかに考えが移っちゃう人もいるかも知れない。

16は普通に導音。3拍目を受けて4拍目はドミナントである。


…とまあ、たかだか4小節の楽譜に「前打音的」やら「気配り」やら「ドッペルドミナント」やら「ナポリ」やら、いろいろ出て来たが、自分でもウンザリする程のこの説明、生徒によってはもうチンプンカンプンで何語を喋ってるか解らない程だろう。

それに何と言っても、この楽譜がg-mollだからどうのこうのではなく、そもそもg-mollである事を解く作業が本題なので、どんなに曲分析しても意味がな…

いや、意味がない訳ではない。ある曲をこうして逆に何調という仮定から分析する事は大切かも知れない。

この譜例のように、前半の1〜2小節で調性を“直感”で仮定し、それを元に分析していく…その為にはやはり経験が必要だろう。

分析の鍵は多分「借用音」つまりその調の構成音以外の音だ。そこで!その感覚を掴む為に、ひとつの調でその音階、分散和音、そして音階のひとつひとつに「刺繍音」(←2度上や下に音を寄り道させた音)、そしてこれら借用音を含んだポピュラーなメロディーを数曲足した楽譜を作り、全く同じパターンでそれを全調分揃えてみた。全部で26通り(24でないのは、同じ調でも♯6つと♭6つの2通り揃えたからだ)ある。いわば「調性判断の為のトレーニングシート」だ。

20140918b

これを生徒に与え、楽譜をボーッと眺めるなり、吹くなり弾くなりしてもらう事にした。

楽譜にはその調性独特の「顔」というものがあると思う。その顔をこのトレーニングシートによって少しずつでも判断できる能力が備わってくれれば良いのだが…

ただ、自分でもその効果については確固たる自信はまだない。さてどうなるか?


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