濡れ衣

 風薫る5月の休日、そよ風に乗って何処からともなく聞こえてくるフルートの調べ。モーツァルトだ。この季節にピッタリの爽やかなメロディー・・・ウ~ン、心洗われ・・・洗われなーい!誰だァ!ウチの近くで窓開けて吹いてんのはァ。

 そう、最近休日になると、近くで誰かが窓を開けてフルートを吹いているのだ。多分隣のマンションだと思うが、その如何にも自己満足って感じの音はかなり大きく近所中に鳴り渡っている。使っていない時の左手の小指など、多分ピン!と立てて吹いているのだろうカラオケマイクみたいに。

一体どんなヤツだ?全然上手くないので、プロではなさそう。というより大体、それはプロの練習の仕方ではない。それはもう、名曲アルバムよろしく片っ端から次々といろんな曲を吹き通しているのである。聞きたくないのに聞こえてくるから仕方がないのだが、ちょっと耳を傾けてみると、結構いい加減に吹いていたりして、できることなら「そこ、音が違いますよ」と一言声をかけてあげたい思いだ。

 いや、その前に窓だ窓。窓を閉めてくれー。何曲もメドレーで吹き流す事自体は、本人が楽しんでやっている事だから、大いに結構、文句を言う筋合いもない。だがアンタのお宅の周りの総ての住人が、その笛の音が聞こえてきて気持いい訳ではないんだゾ。

 遂にある日、うちと同じ住宅の知人に会った時、な~んとなく嫌みっぽい口調でこんな事を言われた。「この間、イイ感じでフルート吹いていましたねェ」ちがーう!違う違う違う、オレじゃなーい!その知人は自分がフルーティストだという事を知っているので、そんな思い違いをしていたのだ。すぐさま事情を説明して解ってもらったが、同じように自分が吹き散らしている、という誤解をしている住人は他にもいるに違いない。

 冗談じゃない。ウチのレッスン室は、雷雨の音さえ聞こえてこない四重窓の遮音室、ピッコロの高音だって洩れないのに。高いお金をかけて設置した意味が薄らいでゆく気がしたので、あの汚ない音の出所を突き止めるベく、そのマンションに行ってみることにした。

しかし意外と判らないものである。怪しい人物と思われるのも嫌なので、執拗にウロチョロする訳にもいかない。今度同じ誤解をされたら、絶対突き止めて文句を言ってやろうと思っていたが、そのうちに音の主はパタッと大人しくなった。きっとやはり誰かが苦情を言ったのだろう。とり敢えずホッとする思いである。時折ちょっと聞こえたりするけど。

 ある日、そのマンションからフルートの楽器ケースを持った女性が出かけていくのを偶然見かけた。何となくインテリぶった男だと想像していたが、女性だったとは。いや、彼女が吹き散らしていたとは限らない・・・ん?何でこんな事をいちいち勘ぐらなければならないのか。我ながら情けない。

 とにかく、楽器を演奏する時はくれぐれもご近所に気配りを忘れずに。やれやれ・・・。


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