続・リタイアされたら困る人

Dさんが亡くなってしまった。リタイアどころか、死んでしまうとは・・・先日、その話を聞いてお宅にすっ飛んで行った。亡くなったのは今年の7月12日、癌だったそうである。

Dさんに最後にお会いしたのは昨年の5月、考えてみればその頃から何となく体調はあまり良くなさそうにみえた。リペアの仕事も月1本程度とずいぶん減らしていたようである。だからタンポの全取替ともなると、早めに予約しておかなければならなかった。

もう10年程前か、1ケ所だけタンポの皮が破れてしまって、そこだけ取り替えてもらったことがあるが、張替え自体は早いものの、その後の調整が大変そうだったのを見たことがある。ちょっとキイを塞いでみてはすぐに楽器をバラし、タンポを調整、また塞いではバラし、塞いではバラし・・・たった1ケ所でこうなのだから、全取替の大変さは想像を絶するものがある。またある時、僕の楽器の胴部管のトーンホールじゃない所に穴が開いていたそうである。僕は全然気付かなかったが、その大きさは0.1mm弱、Dさんはそれと同じ大きさの型を作って、顕微鏡を見ながら張合わせてくれたそうだ。

 楽器のリペアマンとはこのようにかなりの体力と精神力を必要とする職業、体調が悪いとできない仕事だと思う。身体もあまり動かせない分、ストレスも溜まるであろう。ましてやDさんのような名人だと、口コミで依頼は殺到、流石の「神の手」もかなりキツかったに違いない。

先程の「0.1mm弱の穴」だが、自分の楽器のようなヴィンテージモノの場合、手の汗によってまたあくかも知れませんよと言われている。裏を返せば、僕のように楽器に穴を空けちゃう客がいるから、Dさんにも余計な仕事が増えるのだ。だから僕は今、今後の楽器のリペアについてどうするか、なんてことよりも反省と後悔の念で一杯なのである。

仕事場では楽器は吹いていない時はスタンドに立て、しまう時には勿論細かい所まで丹念に指紋や脂を拭き取る、これは楽器を長もちさせるべく、Dさんの助言を元に今でも励行していることであるが、「週に1度は分解掃除を」と言われているのにそこまではなかなかできず、1年に1回程度になってしまっている、まだまだダメな自分がここにいる。

 数ヶ月経ってもDさんの仕事場はまだそのままであった。何だかまだ、Dさんがついさっきまでそこにいて、たまたまちょっと席を外しただけのような、そんな温もりを感じた。

  心よりご冥福をお祈りいたします。江藤大二様へ。


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